黄金色の稲穂16

 夜が静かに過ぎ、朝が訪れた。東の空がうっすらと明るくなり、朝日が田んぼに差し込み始める。澄んだ空気がひんやりと頬を撫で、夜露に濡れた草が朝の光を受けて輝いていた。鳥たちのさえずりがあちこちで聞こえ、新しい一日の始まりを告げていた。


 その時、ふいに静けさを破る声が響いた。

「いつまで寝ているのだ。田植えの時期が来たぞ!」

 鋭い声にカワズ殿たちが目を覚ますと、そこにはカガチ様の姿があった。

 彼の目は怒りを湛え、周囲を睨みつけていた。

「こ、これはまずい!」

 と、一人のカワズ殿が慌てて飛び起きた。

 続いて、他のカワズ殿たちもあわあわと起き上がり、慌てふためきながら田植えの準備を始めた。酒のせいでまだ少しふらつきながらも、道具を取り出し、水を引き、田んぼのあちこちを走り回る。

 カガチ様はそんなカワズ殿たちを見下ろし、ため息をつきながらさらに声を張り上げた。

「さっさと支度をせぬか! 田植えを怠れば、またおまえらを頭から丸呑みにしてくれるぞ、覚悟しておけ!」

 カガチ様の言葉に、カワズ殿たちは一斉に慌てふためいた。

「ひゃあ、そりゃ困るわいど!」

 と、誰かが叫ぶと、他のカワズ殿たちも

「そんなことになったら大変だて!」

 と口々に叫びながら、急いで起き上がり、あたふたと支度を始めた。


 眠たげに目をこすりながら、慌てて道具を手に取ったり、ぐしゃぐしゃの服を直したりしながら、カガチ様の鋭い視線にビクビクと怯えた表情を浮かべている。

「ほれ、早くしろ! また怒鳴られるぞ!」

 と、誰かが叫ぶと、他のカワズ殿たちも

「わかった、わかったてば!」

 と、必死に動き回り始めた。

 田んぼの縁には、カワズ殿たちの小さな姿があちこちで飛び跳ね、急ぎ足で支度を整えている。その姿は小さな波が一斉に田んぼを駆け抜けているようだった。

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