第49話
それにはイリナも加勢する。
「どうなんだ」
自分には。しっかりとした判断は下せない。だけど、常に冷静で一歩引いた位置から見ることができるヴィズなら。彼女の出した答えなら、どんなものでも渋々であったとしても理解はできる。はず。
言うべきか。悩みつつもヴィズは口を開く。
「……そうね。ま、私の所感だけど」
「……」
あまり興味なさそうなオーロール。言葉にはしないが、広いホールだなーと今更。
一度、ヴィズは深呼吸。そして再度息を吐くと、躊躇いながらも決断した。
「ブランシュより上ね。表現力という点では」
「なッ!?」
勢いよくイスから立ち上がるイリナ。それは疑問と否定を意味する。たしかにすごい演奏ではあったけど。まだ。まだ、あたしは認めたくない……! 口を開けたまま、その溜め込んだパワーの逃げる先が見つからず、震えという形で現れてくる。
心のどこかで、ヴィジニー・ダルヴィーという人物は、同じ意見を持ってくれていると思っていた。「全然敵わないわ」とか言ってくれるような。それが正反対で、どんな表情で受け止めたらいいのかわからない。
そのリアクション。ヴィズにもわかる。だが。
「なにかしら?」
それぞれ、心の中で思うことは自由なはず。だからこそ。先ほどの演奏は、以前レッスン室で聴いた同曲よりも、イメージがはっきりと浮かんできた。そういった点では、軍配はこちらに上がる。そこに嘘はない。
ということは、拳を振り上げかねないイリナもわかっている。だからこそ、不満のエネルギーを呼吸に変え、吐き切ることで落ち着かせた。
「……なんでもない」
つまらなそうに、顔を背けた。なにも間違っていないから。自分も。認めなければならない部分があったから。
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