第48話

「……それだけ?」


 意外すぎる理由に、ヴィズは珍しく目を丸くして確認した。信じることはできない、けど、信じるしかない。この人物に対して情報が少なすぎるから。


 ゆったりとステージから降り、ヴァイオリンをケースに戻すオーロール。やることはやった。あとは帰るだけ。


「私にとっては充分に意義のあるものだよん。あの子が見た景色。出会った人。それらが気になるのは当然っしょ?」


「……あんた、あいつのなんなんだ?」


 イリナも質問を追加する。結局、関係性が見えてこない。もし。これから本当に付き合いを始めようというのなら、明らかにしておきたいところ。


 自分とエステル。それを繋ぐ。聞かれた時にオーロールに一番しっくるとくる答え。


「うーん、まぁ姉妹のようなものだと思ってもらえれば」


 一番これが近いか。本当はそれとは違うんだけれども、ややこしいのは面倒だから。


「……オーロール・カロー?」


 疑いながらもヴィズはファミリーネームと合わせてみる。しかしこれでカローは三人目。ニコルもなんだか怪しくなってきた。あの子にも問いただしてみよう。


 本当は違ったらもう、それはそれでいいから。これからも一緒にいることができるのだろうか。それも含めて。ただの友人としてい続けることは。あなたはできるのだろうか。


 ケースのカギもかけ、オーロールは背負う。準備完了。いつでもここから発てる。


「それでいいよん。で。ヴィズは? ヴィズの答えはどうなんかな」


「私?」


 なんのことだろう。不意を突かれてヴィズは体が震えた。


 再度ステージまで上がり、オーロールはヴィズの眼前に立つ。


「感じたことはイリナと同じ。でも結果は違う。それ。ぜひ聞きたいね」


 果たして。この少女はどんな感想を抱いたのだろうか。一応聞いておきたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る