第47話
またもするりと、相手の輪郭が逃げていく。ヴィズとしては心地の悪い印象しか受けない。
「不思議な人ね。私達の懐に潜り込みたいのか、そうじゃないのか。どういう距離感を求めているの?」
なんのためにここにいるのか。ブランシュに頼まれた、と言ってはいたが、そうではないなにかがある。そんな気がしてならない。
しかし、そんな考えなどオーロールには通じることはない。
「別に認めてもらおうとか、そういうのじゃないよ。お互いにお互いを利用し合うってだけ。信頼関係も別になくてもいい。自分の腕を磨くために私を使いなよ」
「あなたにメリットは?」
「ん?」
この際、ここではっきりとしておきたい。ヴィズにとって最優先で確かめておきたいこと。
「たとえば。その言葉通りに、あなたの世界観を利用させてもらうとして。あなたは私達を利用して、どんなメリットがあるというの? 見たところ、ブランシュのように積極的に香水を作っている、というわけでもなさそうだけど」
人間にとって、行動には理由があって、それは必ず自分自身にメリットがあるはず。たとえ人のために、と無償のボランティアであったとしても、それは『誰かのために行動したい』という自身の欲を叶えているのであって。結局まわりまわって自分のために。
それはこの人物にも当てはまるはず。それが自分達に理解できないようなものであっても。嘘であっても。納得はしておきたい。
言われてみれば。唸りながらオーロールは結論を出す。
「んー、そうだね。強いて言えば……」
「……なんだ?」
視線を向けられたイリナは、眉間に皺を寄せてそれを受け止める。自分、にできること。そんなものは……なさそうだけど。
一歩近づき、うん、とオーロールは頷いた。
「ま、パリの観光にでも付き合ってくれたら助かるよ。まだ何度かしか来たことなくてね。今までは観光だったけど、今回は居住だからねぇ」
あまり都会に興味はないのだけれども。でも来ちゃったものは仕方ないから、全力で楽しむしかないわけで。となると、仲良くはしておきたいじゃない? いや、だとするとやっぱサボったのはマズかったか……。
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