第15話

 たしかにいつもと違うショパンを聴けた気がしたのはカルメンもであった。背骨があるショパン、というよりは、どんな形にも変化できるスライム状の。


「それは思った。前までのブリジットなら選ばなかった曲だし」


 どっちかっていうとだけど。


「お前はどっちの味方なんだよ」


「どっちでも。味方とかない。細かい」


「……あぁ?」


 少しずつ侵食されつつはあるものの、やはりブランシュのことを信じたいイリナ。中庸なカルメン。対立するが、今までのような熱さは感じられず、燻った炎。


 はいはい、と仲裁に入るヴィズ。ここはお店。迷惑もかけられない。


「やめなさい。納得はいかないけど、あなたの言いたいことは一応辻褄が合っている。ここにブランシュがいないこと、連絡がつかないことからもそれは明白。納得は。いかないけど」


 だが、心のモヤモヤは残り続けている。どっちの言い分も気持ちも理解できる。グラグラと揺れる不安定な石の上。今はまだ、ブランシュに寄ってはいるけど。それでも、オーロールという人物を完全に否定はできない。


「ヴィズが怒ってるの初めて見たかも」


 言葉の温度は変わらずカルメンがボソッと。だからなんだという冷ややかさも有りながら。


 ジロッと睨むヴィズ。そんな強い剣幕だった? いや、そんなことはないはず。


「怒ってないわ。冷静に判断しただけ」


 いつの間にかみんなの母親のような立場になってる。自分が最終防衛ライン。だから常に俯瞰していなければ。


 スプーンを犬歯で齧りながら、オーロールは「ホワイ?」とでも言うかのように手を広げる。


「不満は本人にぶつけてあげなよ。いつか会えると思うから。たぶん」


「それで。そうなるとあの子が作っていた香水。クラシック曲をテーマにしたもの。終わりってこと?」


 強引に軌道修正するヴィズだが、そもそもがブランシュと一緒にいたのは、香水を作るところからスタートした。ある意味で原点に戻る。なんだか、全ての記憶を失ってからニューゲームするようで。肺に溜まった息を吐き切る。

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