第16話
イリナも一旦鎮火。深くイスにもたれかかった。
「あいつがいないんじゃどうしようもないな。どこでなにやってんだよ……」
太ももを指で叩く。イライラとした気持ちを持ちつつも、そこはピアニスト。奏でるはシューベルト『ワルツ 変イ長調 D. 978』。気づいてひっそりやめる。
あぁ、本当にいい友人達に囲まれていたんだね。素直にオーロールは感心しきり。あの、引っ込み思案の子がねぇ。
「いーや? 継続していくんじゃない? それもニコル次第だけど。彼女がどうするか。私は。もうここまで来ちゃったんなら、本当はやりたくはないけども。手伝うしかないよね」
ごちそうさまでした。パフェも食べ終わってコーヒーも流し込む。そろそろ帰っていいのかな。伝えられることは伝えたけど。一応、ヴィズとの演奏も言われた通り来る予定。合わせる練習はしないけど。合わせる自信はあるから。
静まった場。店内はさらに賑わいを見せてくる。その音に支配され、誰も口を開かない。が。
「……」
「んー? なにごとー?」
綺麗に収まったと思っていたところだったが、無言のままじっくりとヴィズの視線が刺さってきたことに、オーロールもクエスチョンマーク。
つられて他のメンバーも同じように。まず、ヴィズから口を開く。
「……やっぱり信用できないわ、あなた。オーロール、と言っていたわね。たとえそっちの言ったことが全て真実で。ブランシュが元凶であっても」
心の天秤がそう指し示した。たしかに話の辻褄であったり現状であったりを加味すれば、なんらおかしくはない。が、それだけで「はい、そうですか」と言えるほど。自分は人間ができていない。母親失格? まだ子供なんだから許してよ。最後まで抗いたい。
この子。ヴィズ、って言ってたっけ。うんうん、いいね。『使える』ね。そんなことをオーロールは心の中で唱えた。
「信用する必要はないんじゃない? ただ事実だけがある。どうするかは任せるよん」
向かい風があるから鳥が飛べるように。抵抗する力があるから、より高く舞い上がれる。追い風だけじゃダメなんだよ。こういう子がいないと。
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