第11話

 きっとこの子は深い感情の乗った、いいピアノを弾くね。そう勝手にオーロールは決めつけつつ、自分なりにその質問の回答を披露してみる。


「みんなに会ったり話したら、決意が鈍ると思ったんじゃない? それか実は、心の奥底では薄情な人間だったってだけ。あの子のことさ。みんなまだよく知らなかったデショ?」


 パフェ再開。一旦落ち着けると、また甘みが復活する。


 その全くブレない心境に対し、ヴィズの奥底から若干の怒りのような黒い感情が芽生えてくる。


「ブランシュのことを悪く言うのは許せないわね。少なくとも私には。どんなことにも全力で取り組む、そんな気概の子だった」


 そしてそれはイリナも当然のごとく同意。


「だよな。そうだろ、な?」


「どうかな。たしかにその人の言うことも一理ある」


「あ?」


 突然のカルメンの裏切りによって、他にも賛同を求めたイリナの語気が荒くなる。こいつは……!


 そしてみなの注目を一身に浴びるカルメン。その心は。


「私としても別にこの人のことを信用してるわけじゃないけど。ブランシュのほうが信頼できるけど。でも実際こう。それに」


 と、目線をテーブルの下。足元。に置かれたケースに。憮然としながら。


「あー、これ? よく気づいたね」


 咀嚼しながらそのケースをオーロールは拾い上げ、膝の上に。


 先ほどの演奏を思い出しながら、カルメンは静かに告げる。


「……ストラディバリウス『シュライバー』」


 その重々しい名を。神々しい名を。


 一七から一八世紀にかけて、イタリアの名匠ストラディバリによって作られた、弦楽器の最高峰。六百挺ほどが現存しているというが、行方がわからないものも多々ある伝説的なヴァイオリン。すでに弦楽器の進化はこの時点で終わった、という専門家もいるほど。


 この『シュライバー』も行方不明となっていたこともあり、どれほどの価値があるかもわからない。名器は持ち主を選ぶ。ここにあるのは偶然? それとも必然?

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