第39話
そのオーロールはコートの内側をまさぐると、それを手に持って見せつける。
「『死の舞踏』の香水。あの子の作ったやつ」
「……!」
三本の黒いアトマイザーにイリナは反応した。それはまさにブランシュの使っていたもの。もらったこともある。そしてその中身はあの曲の、だと言う。手に汗が浮かぶ。
全て開け、香りを鼻と舌でテイスティングしながら、オーロールは想像を膨らませる。
「キュベブ・カランボラ・サイプレス・エヴァーラスティング・ブルータンジー・ストロベリーキャンドル・サンパギータ・ビーズワックスアブソリュート・セントジョーンズワート。なるほどねー、わかるっちゃわかる。面白い」
頷きながら解釈。今、初めて味わってみたけども、あの子の想いが香りから伝わってくる。随分とまぁ、軽快なステップだことで。
楽曲『死の舞踏』は。死という概念を音楽に当てはめた芸術。絵画や彫刻など、様々な表現の中のひとつ。それをさらに香水へと変化させ、ここに液体という形でアトマイザーに入っている。
目を細めてヴィズは怪訝そうに尋ねる。
「あなたも同じ、だというの?」
あの子と。ブランシュ・カローと。同じで、本当に香りを音に。信じられないことだったけど、でもそれが事実なら。事実なら……いや、なにも変わらない。そういえば、ジェイドがこの前のドイツからの留学生にも『香りを紅茶に変換できる』能力がある人物がいる、と言っていた。世界には、それなりにいるのだろうか。
「同じっちゃあ同じだけど、同じじゃないっちゃあ同じじゃない。その判断は任せるよ。それに意味はないから」
どう思われようがオーロールに興味はない。興味は自分ではなく、彼女達ピアニスト。ブランシュと共にいた人々の音、というものは聴いておきたい。
呼吸。整える。落ち着け。イリナが根本的な質問。
「なら、この曲にした意味は?」
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