第30話
だが、それでも職人として、その中でも扱える者に託したいヴァイオリンというものはある。それがこいつ。
受け取り、様々な角度からオーロールは眺める。癖が強い。なるほどなるほど。そこらにある弓を借り、軽く音を鳴らす。
「……オールドとモダンの中間、て感じだね。へぇ、面白い。これでいいや。これちょうだい」
弾く前から気に入っていたが、音を聴いてさらに気に入る。たしかにジャジャ馬っぽさは感じる。いや、ジャジャ馬というかもう、ロデオ状態。暴れる気性の荒さ。手懐けるにはひと苦労。だがそれがいい。では中間とはどういうものか?
ヴァイオリンというものは一見同じように見えても、f字孔の大きさやアーチ、つまり板の膨らみ具合、その他の要素が若干異なり、それこそひとつとして同じものはこの世に存在しない。特にオールドのものとなると、中央のくびれが狭く窮屈になっているものが多い。だが、これはゆったりとした印象を受ける。
そこだけを切り取ればモダンなヴァイオリンとも言えるのだが、アーチがそれほど高くなく、オールド寄り。それでいて音も枯れた味のあるオールド。だが高音は柔らかすぎないモダン寄り。なんだかあべこべではあるが、どことなく感性を刺激する音。
「さっきはオールドがいい、って言ってなかった? 心変わり早くない?」
一瞬で見抜かれた、とリシャールは驚きを隠せないが、その眼力よりも警戒すべきものがあった。それは奏でた音。たった一音だけでも、わかる人間にはわかる。「あ、こいつ出来るわ」という勘。長年、それこそプロのために従事してきたからこそ、磨かれてきた確実性の高い勘が。
あ、こいつヤバいかも、と告げている。
音の反響。ここは狭い。邪魔なものも多い。それでも、ヴァイオリンで満たされた空間。オーロールには。嫌いじゃない。
「言ったっしょ? 面白ければなんでもいいって。これ、いいね。不思議な感じ。気まぐれな感じが猫っぽい」
もう一度、音を放つ。使いこなすまでには時間がかかりそう。オールドは音自体がモダンとは別物。それは演奏する人物の腕とかそういったものではどうにもならない部分。なのに両方の感覚が味わえるって。サイキョーじゃない?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます