第45話
なんとも雲を掴むような感想。オーロールは首を傾げる。
「ふーん」
「教会で」
「? 教会?」
ふと、不意に違う話題をヴィズに振られ、なんだっけ、とオーロールは目線を上に向けて思考する。
続けてヴィズはここまで聞かないでいたことを口にする。
「ノエルの教会。初日ブリジットとの『遺作』であなたは奏でた。でも三日目、私との時は来なかった。なぜ?」
今になって怒りのような感情が湧いてくる。別にどうでもよかったから。ブランシュとの約束。それを破られて、さらにこの人物にも。
結局、ブランシュから任されたはずのオーロールは、三日目には来なかった。ピアノとヴァイオリンで彩るはずだったプログラムは、変更を余儀なくされた。
その結果、ヴィズはバッハとブラームスをひとりで弾き切ることに。元からその予定ではあったのだけれど。なにも表面上は変更はないにだけれども。なにもかもが元の通りだったのだけれども。全員にフラれた形。それが心に影を落とす。
んー、と考え込むオーロール。だが、すっぽかしたことを思い出した。
「あー、それ。ごめんごめん。気が乗らなくてね。でも、こんなことなら行けばよかった。きっと面白かったんだろうねぇ」
頼まれていたのは初日と三日目。だが、吾輩は猫。風任せ。行きたくなければ行かない。義務ではないから。全てはエステルのせい。私は悪くない。いや、ちょっとやっぱりごめん。反省反省。
「そう。別にいいけど」
怒りとは緊張と同居できない。リサイタルではいつも以上に冷静にピアノと向き合えたヴィズ。もう忘れた。反省も後悔もない演奏はできたから。それでいい。その時にしか弾けないバッハとブラームスだったから。これも新鮮なこと、と前向きに捉えて忘れる。
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