Parfuméraire【パルフュメレール】

@jundesukedomo

初めのように。

第1話

「なんだかせわしないけど、悪くはないとこだね。ただ、あまり束縛されるのは。好きじゃない」


 キョロキョロと室内を見回しながらポツリとこぼした。少女の名はオーロール。非常にシンプルで、大雑把に分けてもテーブルとイス、二段ベッドくらいなもの。逆にいえば、自分好みにカスタマイズできる余白がたくさん。背負った荷物をドカッと床に置く。


 クリスマス休暇中のフランス。十二月の二十日過ぎから、二週間ほど学校は休みとなる。そして二月になるとまた冬休み。そして四月になると春休み。七月からは長い夏休み。実家に帰る者も多いが、彼女はその逆。この季節にここに来た。


「気が合いそうでよかったよ。ひとり部屋も悪くないが、この広さだ。たまに切なくなる」


 その室内にはもうひとり。ジェイド・カスターニュ。ベルギーからの留学生である彼女の趣味はショコラ作り。パリ七区にあるショコラトリーで働いてもいる。彼女も今はブリュッセルに帰るつもりはない。それよりショコラ知識をひとつでも。


 モンフェルナ学園にある寮。自宅から通う生徒も多いが、遠方からの生徒のためにこうして住む場所も提供している名門。特に芸術分野に秀でており、音楽科では何人もプロを輩出している。


 別室にはキッチンなどもあり、今いるのは三五平米ほどの部屋。元々、二人用として共同で使うことを想定していたが、彼女の年代に入寮して人数が奇数であったため、結果的にしばらくはひとりで使わせてもらっていた。追加されるという話はあったが、それがオーロールという人物であることは知らなかった。


 はじめまして、の間柄だが、すぐに意気投合。この学園での生活も楽しいものになりそうだ、とオーロールは喜びを素直に表現。


「感受性が豊かだねー。私としては、おやつも手に入るし。安心したというか、よかったって感じさね」


 あまり故郷から出たことも、出るつもりもなかった。忙しない世界など必要がなかったから。ゆったり。まったり。じっくり。とっぷり。そんな時間の流れで充分。パリでの生活は危惧すべきものであった。

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