第53話

 ドイツ。ベルリンはシャルロッテンブルク=ヴィルマースドルフ地区。他の地区と比べても観光地としての要素は乏しく、どちらかというと住宅街という印象のこの地で、女学院の制服を着た少女が二人。


「悪魔、というとアニエルカさんはなにを思い浮かべるかな?」


 ひとりはシシー・リーフェンシュタール。ケーニギンクローネ女学院において、史上最高とも呼び声の高い才女。知力、カリスマ性、容姿。その他全てにおいて他人を魅了する魔力を持つ。


 場所はシャルロッテンブルク宮殿。かつてのプロイセン王家の富を反映しているかのようなこの宮殿は、初代の王フリードリヒ一世が夏のバカンスを楽しむために建てられた、とされている。第二次世界大戦の被害を受け、修繕された結果、部屋は様々な建築様式が入り混じったものとなっている。


 今では敷地内でマラソン大会などが行われたりと、開放的な市民の憩いの場で、整備された広い庭園なども休日には賑わう。


 そしてその宮殿内。黄金を用いた装飾の煌びやかなダンスホールでは、実際に小さな子供達がドレスを纏ってワルツを踊る。その様子を微笑ましく眺めながら、もうひとりの少女、アニエルカ・スピラ、通称アニーは頭を悩ませた。


「悪魔……っスか? ……そうっスねぇ、山羊……っスかねぇ……」


「山羊?」


 宮殿内はツアー客がちらほらと。コツコツとブーツの音を小気味よく立てて歩いていたシシーは、その足を止めた。非常に気になる答え。


 そこに行き着いた理由。朗らかにアニーは解説する。


「ほら、よくイラストで悪魔って描く時とか、頭からツノの生えた明らかに悪魔っぽいのもありますけど、なんでか山羊の場合もあるじゃないですか。あんなに穏やかそうでミルクも美味しいのに」


 少しご立腹。可愛くて雑草も食べてくれて。いいとこしかないのに。それに紅茶にも関わってくるし。

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