第28話
ヴァイオリンを何挺も持つことは珍しいことではない。音が違うため、気分や作曲家によって変更したいというのは、一応ある程度は弾けるリシャールにもわかる。
「なるほど。普段使い用のものが欲しいってことだね。好みはあるかい?」
店内に流れる空気。ここにあるヴァイオリンは全て極上のもの。どれもこれもオーロールには甲乙つけがたい、が。
「そうだねー。オールドでバロック・ヴァイオリン……がいいかなー」
「オールド? なぜ?」
その意図がリシャールには読めない。はっきりと言ってモダンというものは、より弾きやすくよりいい音を。そのために無駄を削ぎ落とした形。改善改良の粋。
しかしこの少女は。あえて茨の道を選ぼうという。もちろん音質に違いがあり、好みはある。そこを否定するつもりはない。だが、今の時代には圧倒的に少数。
適当にひとつ、目についた棚のヴァイオリンに近づくオーロール。ガラス越しに眺めながら丁寧に吟味。
「『シュライバー』はすでにモダンに修繕されてるからね。違いがあったほうが面白い。オールドのバロックヴァイオリン。ある?」
ヴァイオリンという楽器は非常にややこしい分け方ができる。まず『オールド』と『モダン』、そして『コンテンポラリー』。これは時代を表している。
オールドは一七世紀から一九世紀以前のもの。この時期は交通などがまだ整備されておらず、ヴァイオリンの形などの情報も錯綜しており、地域によって多少の個性がある。モダンは一九世紀初期から二〇世紀初期、コンテンポラリーは中期以降のものとなる。
そしてさらに『バロック』と『モダン』という分け方も存在する。これはヴァイオリンの性能に関するもの。
ヴァイオリンは誕生からほぼ形が変わらずに時代を流れていてきているが、一九世紀ごろに指を乗せる板を長くしたことと、駒の高さを高くして張力を増したという変化がある。これにより音量と輝きが増した。これが『モダン』。それ以前の改良前を『バロック』。
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