第8話
「で? あなた誰?」
時は遡り、十二月二一日。場所はサントメシエ協会近くのカフェ。時刻は夜の二〇時をまわったところ。まだ賑わいを見せる店内で、六人の少女達が席を囲む。最初に口を開いたのは、カルメン・テシエ。小柄ながら迫力のあるフォルテシモを武器とする学園のピアニスト。
とは言っても六人席というものはないので、三つの丸いテーブルを連結して作った即席のもの。レンガ調の柱や板張りの床、螺旋階段などがシンプルモダンなムードを携えている。
皆からの視線を浴びるように中央に位置した少女。その彼女が質問に答える。
「オーロール、って呼んでいいよん。ま、ブランシュとは知り合いだね。んで、今日は頼まれた。代わりにやってくださいって」
だからやった。ショパン『レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ』。それだけの話。
「代わり?」
対面に座る少女、ベル・グランヴァルがキョトンとする。
スッとカフェラテを口に含み、オーロールは味を楽しむ。ミルクの甘味。エスプレッソの苦味。うーん、故郷の行きつけのほうが好きかなー。
「あの子はもういなくなるからね。でも、今日からのリサイタル。穴を空けるのは忍びない、と。だから代打で呼ばれたってわけ。私に不満をぶつけられても困るねー。むしろ感謝されたいくらいだよ」
自分も被害者ということを明らかにする。そしてこんな裁判のような形で詰められるのも、いい気は当然しない。なんだってこんなことに。「ホワーイ?」ととぼけてみせる。
じっくりと会話の意味をベルは噛み砕く。代わりにいるこの人。
「いなくなる……ってどういうこと? ブランシュは、いなくなるって。やっぱどういうこと?」
同じことを繰り返して変な構文のようになってしまった。だが、いきなりそんなことを言われても理解できるわけもなく。ブランシュ・カローは友達で。それが消える、なんてことは想像もできなくて。
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