第19話 禁じられた記憶
勇人が旧校舎の教室で見つけたノート。それは、直也が書いた日記だった。ページをめくると、そこには彼の苦悩と孤独が赤裸々に綴られていた。
「これは……直也が何を考えていたのか……」
勇人は読み進めながら、直也の心の闇に触れていく。その日記には、普通の高校生活の中で感じていた些細な不安や、勇人を含む友人たちに対して抱いていた思いが書かれていた。しかし、次第にその内容は変化していった。
「影が……近づいてくる……俺はもう逃げられない……」
直也の日記の最後の方は、まるで現実とは異なる世界に迷い込んでいくかのような記述で満たされていた。勇人はその内容に鳥肌が立った。直也が感じていた「影」は、彼が戦ってきた異世界のものと繋がっているのかもしれない。
「直也……お前は何を知っていたんだ?」
勇人はその日記を読み進めながら、直也がこの影の世界にどのように関与していたのかを探り始めた。
日記の中には、ある特定の場所についての言及があった。それは「誰も入らない部屋」と呼ばれる、旧校舎のさらに奥にある部屋だった。直也はその部屋で「影」を感じ取り、そこから逃げることができなかったと書かれている。
「その部屋か……直也が囚われた場所……」
勇人はすぐに行動を起こすことを決意し、旧校舎のさらに奥へと足を運んだ。廊下はますます薄暗くなり、空気が重く感じられた。まるで何かが彼を拒んでいるかのような不穏な雰囲気が漂っていた。
「ここが……直也が言っていた場所か」
勇人は古びた扉の前に立ち、息を整えた。その扉は重く閉ざされており、まるで何かが封じられているかのような不吉な感じがした。
「俺が開けなきゃ、直也は救えない……」
勇人は決意を固め、扉に手をかけた。錆びついた取っ手を力いっぱいに引き、扉を開け放った。中に広がっていたのは、意外にも普通の教室だった。しかし、その中心に一つだけ異様なものがあった。それは、黒い霧が漂う鏡だった。
「これは……?」
鏡の前に立つと、その表面が不気味に揺れ動き、まるで何かを映し出そうとしているかのようだった。勇人は恐る恐る鏡に手を伸ばし、その表面に触れた。
勇人が鏡に触れると、突然強烈な力が彼を引き込んだ。次の瞬間、勇人は別の世界に立っていた。そこは、まるで夢の中のように曖昧で現実味がなく、周囲の風景は歪んでいた。
「ここは……どこだ?」
勇人は周囲を見渡したが、すべてがぼんやりとした影のように見えた。その時、彼の前に一人の人物が現れた。それは、直也だった。
「直也……お前、ここにいるのか?」
勇人は駆け寄ろうとしたが、直也はその場から動こうとしなかった。彼の目は虚ろで、まるで勇人の存在に気づいていないかのようだった。
「直也! 俺だ、勇人だ!」
勇人は必死に呼びかけたが、直也は反応しない。彼はただ、ぼそぼそと何かを呟いているだけだった。
「影が……俺を……影が……」
直也の呟きは断片的で、その内容は勇人には理解できなかった。しかし、次の瞬間、直也の周囲に黒い影が集まり始めた。
「何だ、これは……」
勇人は直也を守ろうと前に出たが、その黒い影はまるで意思を持っているかのように勇人を押し返してきた。影は次第に大きくなり、直也を飲み込もうとしていた。
「直也! お前を置いていけるわけがないだろう!」
勇人は直也に手を伸ばし、影に引き込まれそうになる直也を必死に引っ張り出そうとした。しかし、影の力は強大で、勇人も次第に飲み込まれていくような感覚に陥った。
「くそ……負けるわけにはいかない!」
勇人は全力で抵抗し、ついに直也を影から引き離すことに成功した。その瞬間、鏡の世界は崩れ始め、二人は一気に現実の世界に引き戻された。
気がつくと、勇人は元の教室に戻っていた。直也も無事にそこに横たわっていた。彼はまだ意識が戻っていないが、少なくとも影の世界からは解放されたようだった。
「直也……戻ってこれたんだな」
勇人はほっと胸をなでおろし、直也の顔を見つめた。その時、直也の目がゆっくりと開いた。
「勇人……?」
「直也! お前、無事か?」
直也はまだぼんやりとしていたが、勇人の顔を見て微かに微笑んだ。
「ありがとう……勇人。俺……ずっと怖かった……」
直也は弱々しく語ったが、その声には安堵が感じられた。彼は勇人に助けられたことを理解していた。
「もう大丈夫だ。お前は俺が守る」
勇人は直也の肩を支えながら、深い友情を感じていた。しかし、直也はゆっくりと首を振った。
「勇人……俺はもうここにはいられないんだ。影は消えていない……」
直也の言葉に、勇人は衝撃を受けた。彼が救い出したと思っていたが、影の脅威はまだ完全には消えていないということだ。
「どういうことだ? 影は……」
直也は言葉を詰まらせながらも、力を振り絞って続けた。
「影は……まだ……俺たちを狙っている……。俺を……完全に引き込むために……」
その言葉を聞いた勇人は、さらなる危機が迫っていることを感じた。直也を救うための戦いはまだ終わっていないのだ。
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