34話 選択の代償

 勇人は深く息を吸い、目の前に立つ影の主を見据えた。男は冷ややかな笑みを浮かべ、勇人たちが何を選ぶのかを待っていた。




「影の力を手に入れるか、滅ぼすかだと? 俺たちには他の道がないのか?」




 勇人が問いかけると、男は無言で首を横に振った。彼の態度は、あたかもその二択以外の選択肢など存在しないと告げているようだった。




「お前が影を操っているのか。それとも、影がお前を支配しているのか?」




 亮太が一歩前に出て質問する。男は一瞬だけ戸惑ったかのように見えたが、すぐに表情を取り戻し、冷ややかな声で答えた。




「影の力は全てを飲み込む。それを手にする者は、その代償として自らの意思を差し出すことになる。だが、それが選択の本質だ」




 その言葉に佐和子は小さく息を飲んだ。影の力を手に入れることは、自分自身を失うことを意味するのだろうか。そんな不安が彼女の心に広がった。




「俺たちは影を利用するためにここに来たんじゃない。影を止めるために来たんだ」




 勇人は決意を込めた言葉を放ち、仲間たちに視線を送った。葵、亮太、佐和子もそれぞれに決意を固め、勇人に頷いた。






 男の冷笑が消え、彼は真剣な表情に変わった。「ならば、影を滅ぼす力を示してみろ」と言いながら、彼は手をかざし、影を呼び寄せた。巨大な黒い影が再び渦巻き、勇人たちに迫ってきた。




「来るぞ!」




 勇人が叫び、全員が構えた。影は形を変えながら彼らに襲いかかり、まるで生き物のように動き回っていた。亮太が影を迎え撃ち、佐和子がペンダントの力で光を放つ。葵もまた影を退けるために精一杯力を振り絞っていたが、影の勢いは止まらない。




「こんな力……どうやって止めればいいんだ?」




 亮太が叫びながら、影に押し返されそうになる。影はますます強力になり、彼らを飲み込もうとしていた。




「ペンダントの力だけじゃ足りない……」




 佐和子が苦しそうに呟く。彼女のペンダントが放つ光は一時的に影を退けるが、それは一瞬のことであり、すぐに再び影が迫ってくるのだった。






 影が圧倒的な力で勇人たちを追い詰める中、突然、葵が何かに気づいたように叫んだ。




「影を滅ぼすには、影と向き合わなきゃいけないんじゃない!? 光だけで影を消せないなら、その力を取り込むしかない!」




 その言葉に全員が一瞬驚きの表情を浮かべたが、すぐに理解した。影を滅ぼすには、ただ避けるのではなく、その本質を受け入れ、共に戦わなければならないということだ。




「でも、それってどうやるんだ……?」




 亮太が戸惑う中、佐和子が一歩前に出た。




「私が試してみる」




 彼女はペンダントを握りしめ、影の力を感じ取ろうとした。ペンダントの光が少しずつ変化し、暗い色を帯び始めた。




「影と光が……共鳴してる?」




 佐和子は不安を感じながらも、その感覚に従った。影が彼女に近づき、ペンダントが再び輝きを放つと、影はその光を吸収し始めた。




「ペンダントの力を通じて、影と融合する……?」




 勇人が驚きながら佐和子の行動を見守る。影は次第に彼女の周りを取り囲むが、ペンダントの力がそれを制御しているようだった。




「影を……受け入れる……」




 佐和子が呟きながら、影を取り込み始める。彼女の体は一瞬影に包まれたかのように見えたが、次の瞬間、ペンダントがその力を安定させ、影は消滅した。






 佐和子が影を取り込んだ瞬間、影の主は驚愕の表情を浮かべた。「まさか、影を受け入れるとは……」と彼は呟いた。




「影を完全に消し去ることはできない。でも、その力を制御することはできるんだ」




 佐和子は自信を持って答え、ペンダントの光が輝きを増していく。その光は影の主に向かい、彼を包み込んだ。




「愚か者どもが……」




 男は苦しそうに呟きながらも、影に飲み込まれるかのようにその姿を消していった。最後の言葉を残し、影の主は完全に姿を消し、影の脅威は終わりを迎えたかのようだった。






 影の主が消え去った後、勇人たちは静かにその場に立ち尽くしていた。彼らは戦いに勝利したが、何かが完全に終わったわけではないことを感じ取っていた。




「これで本当に終わったのかな……?」




 葵が静かに問いかけると、勇人はゆっくりと頷いた。




「いや、まだ完全には終わっていないかもしれない。でも、影の力を抑える方法を見つけた。それが次への希望だ」




 亮太も同意しながら、佐和子を見つめた。彼女は影の力を取り込んだものの、その影響がどのように出るのかはまだ分からなかった。しかし、彼女は笑顔を浮かべ、仲間たちに向かって言った。




「大丈夫。これからは私たちが影をコントロールできる」




 勇人たちはその言葉に勇気を得て、新たな日常へと歩み出すことを決意した。影の力はまだ存在しているが、それを乗り越える力を彼らは持っているのだと信じていた。

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