33話 迫りくる選択

 男との遭遇から数日が経過したが、勇人たちはまだその時の衝撃から抜け出せずにいた。男が残した言葉、「選択を迫る時が来る」という意味深な警告が、彼らの頭の中で何度も繰り返されていた。




「奴は一体何を企んでいるんだ……」




 勇人は放課後、教室の片隅で呟いた。男が影を操っていたことは明らかだが、その目的が何なのかは依然として不明だった。




「ただの脅しだったのかもしれないけど、そうは思えないわ」




 葵が窓の外を見つめながら答える。彼女もまた、男が次に何をしようとしているのかについて考え続けていた。




「影の力を持っているってことは、影を完全に消し去ったわけじゃないってことだよな」




 亮太が椅子に座りながら言った。彼はもう一度あの地下室を調べ直すべきだと考えていたが、仲間たちの不安を考えると、簡単には提案できなかった。




「私たち、また戦わなければならないのかな……」




 佐和子が不安そうに言う。彼女の手にはまだペンダントが握られており、その不思議な力がいつか再び必要になるかもしれないという思いが、彼女を緊張させていた。






 その日の夕方、勇人は一人で学校の裏手にある塔の地下室に向かった。あの男が消えた後、何か新しい手掛かりが残されているかもしれないと考えたからだ。




 地下室に入ると、そこには依然として黒い霧の痕跡が残っていた。勇人は慎重にその霧を観察し、男が残した影響を感じ取ろうと試みた。




「ここにはまだ何かがある……」




 勇人は霧の中から見つけた小さな紙片を拾い上げた。その紙片には古代の文字が書かれており、彼が読めるものではなかったが、どこか儀式に関連しているものだということは直感的に理解できた。




「これがあの男の手掛かりかもしれない……」




 勇人は紙片をポケットにしまい、再び仲間たちに報告するために教室に戻ることにした。新たな謎の解明が彼らに新たな道を示すかもしれないと信じて。






 翌日、勇人たちは再び集まり、地下室で見つけた紙片について話し合った。誰もその古代文字を解読することはできなかったが、葵が何かを思い出したように声を上げた。




「これ、図書館で見たことがあるかもしれない」




 葵は学校の図書館で過去に見た本に、この古代文字と似たものが載っていたことを思い出し、みんなでその本を探すことにした。




 図書館での探索の末、彼女たちは古代の儀式に関する書物を見つけた。その中には、影を操るための方法や、それを抑えるための儀式についての詳細が書かれていた。




「ここに書かれていることが本当なら、あの男は影を完全にコントロールするための最終段階に近づいている」




 亮太がページをめくりながら言った。彼らはすぐにその儀式を止めなければならないと確信したが、具体的にどう動けばいいのかはまだ分からなかった。




「私たち、どうすればいいんだろう……」




 佐和子が不安そうに言うと、葵が冷静に答えた。




「この儀式を行う場所は限られているはず。影の力を引き出すためには特別な条件が必要なんだから」




「じゃあ、その場所を突き止めて、先に手を打つしかないな」




 勇人は決意を固め、すぐに動き出すことを提案した。彼らが選択を迫られる時は、すぐそこまで来ていた。






 その夜、勇人たちは学校の周辺を巡り、影の力が集まっている場所を探し続けた。そして、ついにその場所が判明した。学校から少し離れた森の中にある古い神社が、儀式の場として使われる可能性が高かった。




「ここだ……」




 勇人は仲間たちと共にその神社に足を踏み入れた。静けさとともに、どこか不気味な力が漂っていた。




「何かが始まろうとしている……」




 葵が慎重に周囲を見渡しながら呟いた。彼らはその場に立ち尽くし、次に何が起きるのかを警戒していた。




 突然、男の声が再び響いた。




「ようやく来たか。貴様たちに選択の時が訪れた」




 影の主と思しき男が再び姿を現した。彼は冷ややかな目で勇人たちを見下ろし、ゆっくりと近づいてきた。




「影の力を完全に手に入れるか、それとも滅ぼすか。どちらを選ぶかは、お前たち次第だ」




 男はそう言いながら、影の力が集まる場所を指し示した。そこには巨大な影が渦巻いており、まるで彼らを飲み込もうとしているかのようだった。




「どうする、勇人……?」




 亮太が息を呑んで問いかける。勇人は拳を握りしめ、仲間たちの顔を見回した。彼らは共に戦い続けてきた仲間であり、この場で決断を迫られることになるとは思ってもみなかった。




「俺たちは……」




 勇人は深く息を吸い、次に何をすべきかを決断する瞬間が訪れた。

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