第3話 閉ざされた扉
夕方、沈みかけた太陽が学校の廊下を照らしていた。柊 勇人(ひいらぎ はやと)と高槻 遼子(たかつき りょうこ)は無言のまま、校舎の奥へと向かっていた。直也の謎のメッセージ——「来るな」の意味を考えながらも、二人は足を止めることなく進んでいく。
「直也がどこかで待っている……そう信じたい」
勇人は胸の中でそう思いながらも、心の奥底では不安が消えない。遼子は、いつもの冷静な表情を保ちながら、しっかりと前を見据えていた。
「影の教室……この先に何があるのかしら」
遼子が静かに呟いた。勇人は答えられず、ただうなずくだけだった。
校舎の奥、普段は使われていない廊下に二人はたどり着いた。ここは昨日直也と来た場所だが、今日は一層薄暗く、不気味な雰囲気が漂っている。
「ここだ……昨日、俺たちが見つけた教室……」
勇人は震える手で扉のノブに手をかけた。しかし、その瞬間、遼子が彼の手を止めた。
「待って」
遼子は何かを感じ取ったようだ。彼女は扉の隙間に目を凝らし、何かを確かめるようにしている。
「何かいるのか?」
勇人は不安そうに尋ねたが、遼子は無言で首を振った。
「……ただ、何か変な感じがするの」
そう言うと、遼子は一歩後ろに下がり、扉を見つめ続けた。
教室の扉を開けると、内部は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。中に入ると、昨日と同じく誰もいない。教室の机や椅子はすべて整然と並んでおり、特に異常は見当たらない。
「何も……変わったことはないみたいだな」
勇人は教室の中を見渡しながら言った。しかし、遼子はその言葉を聞き流すように、ゆっくりと教室の中央に歩み寄った。そして、床をじっと見つめた。
「何か感じるんだ……ここに、何かが隠れている気がする」
勇人は遼子の言葉に戸惑いながらも、彼女のそばに近寄った。その瞬間、彼は足元に奇妙な違和感を覚えた。
「これ……何だ?」
床の一部がわずかに浮き上がっているように見える。それは、まるで隠し扉のようなものだった。勇人と遼子は目を合わせ、息を飲んだ。
「これを開けてみるしかない……」
勇人は決意を固め、床の隙間に手をかけた。少し力を入れると、床板はゆっくりと上がり、そこには暗い地下への通路が現れた。
「地下……?」
遼子は驚いた表情を浮かべた。二人は互いにうなずき合い、恐る恐るその地下への階段を降り始めた。
地下への階段は、古くて不安定な作りだった。狭い通路の中、勇人と遼子は慎重に足を進めていった。下へと続く階段の先には、微かな光が漏れているのが見えた。
「ここ、本当に学校の中なのか?」
勇人は疑問を抱きながらも進み続けた。その先に広がっていたのは、薄暗く広い空間だった。天井からのわずかな光が、埃を照らしているだけで、詳細はほとんど見えない。
「何だ、この場所は……」
勇人が呟いた瞬間、背後からドアが閉まる音が響き、二人は振り返った。
「……誰か、いるのか?」
勇人は声を張り上げたが、応答はない。だが、確かに何者かが彼らを閉じ込めたのだ。勇人はますます緊張感を募らせた。
「ここで何かが起きている……直也はここにいるのかもしれない」
遼子は冷静に周囲を見回しながら言った。勇人もうなずき、辺りを探ることにした。
しかし、その時——勇人の足元に何かが引っかかった。彼は転びそうになりながらも、なんとか踏ん張ったが、そこで彼の目に飛び込んできたのは、暗闇の中に散らばっている奇妙な紙切れだった。
「これ……何だ?」
紙には、何かが書かれていた。薄暗いために内容は判別しづらいが、勇人は慎重にそれを拾い上げた。
「直也の字だ……」
それは確かに、直也の字で書かれたメモだった。だが、紙はところどころ破れていて、完全な文章にはなっていなかった。しかし、その断片からは不気味なメッセージが浮かび上がっていた。
「……来るな……逃げろ……影が……」
勇人はその文を声に出して読んだ。遼子も紙切れを覗き込み、顔を曇らせた。
「直也……何があったの?」
その瞬間、地下の空間に再び響き渡る不気味な音。まるで何かが壁を這っているような音が耳を突き刺す。
「やばい……逃げるぞ!」
勇人は遼子の手を取り、暗闇の中を駆け出した。背後から迫りくる得体の知れない気配。二人は一瞬たりとも立ち止まることなく、必死に走り続けた。
暗い通路を必死に逃げる二人は、いつの間にか学校の構造とは全く異なる迷路のような場所に迷い込んでいた。勇人の息は荒くなり、遼子も疲労の色が濃い。
「どこに向かってるんだ……?」
勇人は焦りと混乱が入り混じり、何が現実で何が幻なのか、次第にわからなくなっていた。目の前の道はどこまでも続いているようで、出口が見える気配はない。
「くそ……ここは一体何なんだ?」
勇人は何度もそう呟いたが、答えは返ってこない。ただ、背後から聞こえてくる不気味な音だけが、二人を追い詰めていた。
「何かが……私たちを見てる」
遼子の言葉が、勇人の胸にさらに重い不安を与えた。
二人がとうとう息も絶え絶えになり、立ち止まったその瞬間、前方に微かな光が差し込んできた。
「出口……?」
勇人はそれに賭けて再び走り出した。遼子もその後を追う。光の先には、薄い扉が一枚だけ立っていた。二人はその扉を開け、外に出た。
そこに広がっていたのは、見慣れた校舎の廊下だった。
「ここは……」
二人は疲れ切った体を支えながら、顔を見合わせた。どうやら元の学校に戻ってきたようだった。しかし、すぐに気づいた——時間が大きく経過していることに。
「もう、こんな時間……」
勇人は時計を見て驚愕した。二人が地下に入ってから、すでに数時間が経過していたのだ。
「影の教室……これはただの噂なんかじゃない。確実に何かがある」
勇人はそう確信し、直也の行方を必ず追い求める決意を固めた。
しかし、その時、再び携帯が震えた。直也からの新たなメッセージだ。
「近づくな……」
その一言に、勇人と遼子はただ立ち尽くすしかなかった。影の教室の謎は、深まるばかりだった。
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