43話 過去と未来の狭間

 佐和子が影の力を受け入れる決意を固めてから数日が過ぎた。彼女は祖母の日記を読み進め、その中に隠された謎を少しずつ解き明かしていた。影の力の起源、そしてそれを制御するための方法――すべてがこの日記に書かれているようだったが、あるページが破り取られていることに気づいた。




「この部分に、何か重要なことが……?」




 彼女はその欠けたページが決定的な情報を隠していると直感したが、今はそれを見つける術がなかった。




「このままでは、真実にたどり着けない……」




 彼女は苛立ちを覚えながらも、勇人と直也にこのことを伝えることにした。3人は再びあの古びた建物へ戻る決意を固め、日記の続きを探し出すために動き出した。




 その日の放課後、3人は再び学校の裏にある森を抜け、あの古い建物へと足を踏み入れた。周囲には誰もおらず、静寂が支配していた。しかし、建物に近づくと、彼らはそこで見知らぬ男が立っているのを発見した。




「君たち、ここで何をしている?」




 その男は中年で、無表情で彼らを見つめていた。スーツ姿で、どこか威圧感を漂わせていた。




「あなたは……誰ですか?」




 勇人が警戒しながら問いかけると、男は淡々とした声で答えた。




「私はこの土地に関わる研究者だ。君たちが何をしているのか、少し気になってね」




 佐和子はその言葉に違和感を覚えた。この場所が忘れ去られたような場所であるにも関わらず、なぜこの男はここにいるのだろうか。




「ここで何かを研究しているんですか? この場所が持つ力について……」




 佐和子が一歩前に出て問いかけると、男は軽く笑みを浮かべた。




「その通りだ。この土地には、非常に特殊な力が宿っている。それを研究するために、私はここにいる。しかし……君たちのような若者がここに来るとは思わなかった」




 その男の態度は冷静だが、どこか探るような視線を感じた。佐和子はその場の緊張感を感じながらも、さらに質問を投げかけた。




「この土地に眠る力とは、影のことですか?」




 男はその質問に一瞬だけ驚いた様子を見せたが、すぐに冷静な表情に戻った。




「そうだ。その影の力を理解することが、私の研究の目的だ。そして君たちは、その力とどう関わっている?」




 佐和子たちは、どう答えるべきか迷ったが、勇人が一歩前に出て答えた。




「私たちはその力と戦っているんです。この場所に来たのは、その力を探るためです」




 男は興味深そうに頷いた。




「なるほど……ならば、私と協力してみないか?」






 男の提案に、3人は驚きと警戒を感じた。見知らぬ男との協力が、果たして彼らにとって利益となるのか、それとも危険な選択になるのかは判断がつかなかった。




「協力……どういう意味ですか?」




 佐和子が慎重に尋ねると、男は続けた。




「私は影の力を理解し、それを制御するための方法を探している。もし君たちがその力と関わり、戦っているのなら、情報を共有することでお互いに利益があるはずだ」




 勇人はすぐに反応した。




「でも、あなたの目的が何なのか、まだわからない。私たちは影と戦ってきたが、それを制御することが本当に正しいのか、まだ確信が持てないんです」




 男は少し考え込んだ様子で答えた。




「確かに、影を制御することは危険を伴う。しかし、それを放置しておけば、さらに大きな危険が訪れる可能性もある。だからこそ、私はその力を理解し、制御する術を見つけたいのだ」




 佐和子はその言葉に揺さぶられた。影を制御することができれば、これまでの戦いに終止符を打つことができるかもしれない。しかし、その代償が何であるのかは、まだ誰にもわかっていなかった。




「少し考えさせてください」




 佐和子はそう言って、男との協力を一度保留にした。彼らはこの提案を慎重に検討する必要があった。






 その夜、3人は学校近くのカフェで集まり、男からの提案について話し合った。




「どう思う? 彼の言葉は信用できるのか?」




 直也が真剣な表情で問いかけると、勇人は腕を組んで考え込んだ。




「正直、わからない。でも、影についての情報を集めるには、彼の協力が必要かもしれない」




 佐和子は、男との出会いが偶然ではないように感じていた。




「彼が何者であれ、私たちにとって重要なのは、影をどうするかだわ。制御できる力があるなら、それを使うべきかもしれないけれど、その代償が怖い……」




 彼女の言葉に、2人も黙り込んだ。影を制御することがもたらす結果は、まだ誰にも予測できなかった。




「まずは慎重に情報を集めて、彼が本当に信頼できるかどうかを見極めよう」




 勇人が結論を下し、3人は再び男と接触することを決めた。その決断が、彼らの運命を大きく変えることになるとも知らずに。






 翌日、佐和子たちは再び男の元を訪れ、協力の意思を示した。男は満足そうに微笑み、彼らに詳細な情報を提供し始めた。




「これから君たちに教えるのは、影の真の姿、そしてそれを操る者たちの歴史だ。だが、その情報を知ることにはリスクが伴う」




 男はそう警告しながらも、彼らに影の力の全貌を解き明かすための鍵となる情報を与える。




「君たちがその力をどう使うか、それは君たち次第だ……」




 彼らはその言葉に耳を傾けながら、自分たちがいよいよ影の核心に迫りつつあることを実感していた。しかし、その道のりには、さらなる試練と犠牲が待ち受けていることを、彼らはまだ知る由もなかった。

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