第25.5話 佐和子との出会い

 佐和子が転校してきたのは、高校2年の夏休みが終わる直前のことだった。彼女は新しい学校の校門の前で、ふと足を止めた。冷たい風が吹き抜け、彼女の長い髪を揺らした。どこか物憂げな瞳で学校を見つめながら、心の中で「ここでやり直せるのだろうか」と自問していた。




 新しい環境、新しいクラスメイト。佐和子は、今まで何度も学校を転々としてきた経験から、新しい場所に対する期待や不安を表に出さないようにしていた。だが、この学校には何か特別なものを感じていた。それが何であるのかはまだ分からなかったが、彼女の直感が何かを告げているようだった。




 教室に入ると、彼女は静かに席に着いた。周りの生徒たちは彼女に気を使うようにして、遠巻きに見ているだけだった。彼女が周囲に心を開かないことは、すぐに皆に伝わっていた。佐和子自身も、特に他人と関わろうとは思っていなかった。




 それでも、彼女に一人だけ声をかけてきたのが、直也だった。






 


「君、今日から転校してきたんだろう?」




 佐和子が放課後、校門へと向かう途中、背後から軽快な声が響いた。振り返ると、そこには明るい笑顔を浮かべた直也が立っていた。彼はどこか屈託のない雰囲気を持っており、その笑顔は佐和子にとって少し眩しかった。




「……そうだけど、何か用?」




 佐和子は冷たく返事をしたが、直也は気にする様子もなく、彼女の隣に並んだ。




「別に。ただ、君が一人でいるのを見かけたから、話しかけただけだよ。それに、クラスメイトが増えたんだから、挨拶ぐらいはしないとなって思ってさ」




 直也の言葉に、佐和子は少し驚いた。彼女は、これまでの学校生活でほとんど他人と親しくなったことがなかった。だが、直也の言葉はどこか温かみがあり、彼女の心の壁をほんの少し崩した。




「……そう。ありがとう」




 それが、二人の最初の会話だった。特別なことは何もなかったが、佐和子にとってはそれが新しい出発点になった。




 その後、佐和子は少しずつ直也と話すようになり、彼を通じて勇人とも知り合うことになった。勇人は寡黙で、どこか孤独を抱えた少年だったが、彼の瞳には常に強い意志が宿っていた。初めて勇人に会った時、佐和子は彼の存在感に圧倒され、彼の背負っている何かに引かれるものを感じた。




 ある日の放課後、佐和子は勇人が校舎裏で一人で剣術の練習をしているのを偶然見かけた。彼は黙々と剣を振り続け、まるで何かに取り憑かれたようだった。その姿を見て、佐和子は思わず声をかけた。




「あなた、どうしてそんなに必死に……?」




 勇人は振り返り、驚いた表情を浮かべたが、すぐにそれを隠して無表情に戻った。




「俺にはやらなければならないことがある。それだけだ」




 それ以上の言葉はなかったが、佐和子は彼の中にある孤独と使命感に共感を覚えた。彼女もまた、他人には言えない過去を抱えていたからだ。




 その時から、佐和子は勇人の側にいることで、少しずつ彼のことを理解し始めた。そして、勇人もまた、佐和子の存在に少なからず心を動かされていた。二人は言葉では多くを語らなかったが、互いに感じる何かがあった。






 こうして、佐和子、勇人、直也の三人は次第に親しくなっていった。特に直也は、明るく前向きな性格で二人の仲を取り持つ役割を果たしていた。彼はどんな時でも楽観的で、どんな困難にも笑顔で向き合う力を持っていた。




「俺たち、変なトリオだよな」


 直也がある日、笑いながら言った。




「そうかもね。でも、悪くないわ」


 佐和子は微笑みながら答えた。




「そうだな……俺たち、結構いいチームかもな」


 勇人も少しだけ口元を緩めた。




 三人の絆は、表面的には普通の友人関係のように見えたが、実際にはお互いに深い部分で支え合っていた。それぞれが異なる背景と悩みを抱えていたが、共に過ごす時間がそれらを癒していくようだった。




 この出会いが、彼らが後に直面する数々の困難に立ち向かう力の源となっていった。

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