第14話 迷宮の闇に潜む影
勇人は迷宮の中を彷徨い続けた。目指す光は一度は消えかけたが、今も彼を導いているかのように遠くでかすかに揺らめいていた。勇人はその光に希望を託し、再び足を進めた。
「直也を……必ず助け出すんだ」
勇人は自分にそう言い聞かせ、焦る心を落ち着けようとした。迷宮の道は複雑に入り組んでおり、まるで彼の心の中の混乱そのものを映し出しているかのようだった。
しかし、進むたびに勇人は異様な視線を感じ始めた。背後から誰かが自分を見ているような――そんな気配が、彼を不安にさせた。
「誰だ……」
勇人は立ち止まり、背後を振り返った。だが、そこには誰もいない。ただの暗闇が広がっているだけだった。彼はそのまま少しの間耳を澄ませたが、何も聞こえなかった。
「気のせいか……?」
勇人は自分を安心させるように呟き、再び前を向いて歩き出した。だが、次の瞬間、突然目の前に黒い影が現れた。
「な……!」
勇人は驚いて後ずさりした。その影は人の形をしていたが、顔も表情もない。まるで生き物ではないような、異質な存在だった。
「お前は……何者だ……?」
勇人が恐る恐る問いかけると、その影はゆっくりと彼の方に近づいてきた。勇人はその場から動けなくなり、ただ影の存在を見つめていた。影は無言のまま、じっと勇人を見つめているようだった。
「答えろ……!」
勇人は必死に声を張り上げたが、影は一言も発さず、ただ静かにそこに立ち続けた。
勇人は影との対峙に緊張感を募らせたが、冷静に状況を見極めようとしていた。この影はただの幻なのか、それとも危険な存在なのか――勇人には判断がつかなかった。
「何が望みなんだ……?」
勇人は再び問いかけたが、影は何も答えない。ただその場に佇み、勇人を見つめ続けている。だが、その沈黙が逆に不気味であり、勇人の不安を煽った。
「くそ……!」
勇人は影に向かって一歩踏み出した。その瞬間、影が突然動き出した。まるで彼の動きを待っていたかのように、素早く勇人に向かって突進してきた。
「来るな!」
勇人は咄嗟に後退したが、影はそれを許さずに迫ってきた。彼は必死に影を避けようとしたが、影はまるで彼の動きを完全に読んでいるかのようだった。どれだけ動いても、影は彼のすぐ近くに現れる。
「くそっ……!」
勇人はさらに必死に逃げ回ったが、影は容赦なく彼を追い詰めてきた。ついに、勇人は迷宮の壁際に追い込まれ、逃げ場を失った。
「もう……後がない……!」
勇人は壁に背を押し付けながら、どうすればこの影を退けられるのか考えを巡らせた。しかし、焦る気持ちとは裏腹に、打開策は見つからない。
その時、影はゆっくりと手を伸ばし、勇人に触れようとした。その瞬間、勇人の中にこれまでに感じたことのない寒気が走った。
「このままじゃ……!」
勇人は覚悟を決め、影と向き合った。たとえ恐ろしくても、ただ逃げるだけでは何も解決しない。彼は一歩前に踏み出し、影に向かって声を上げた。
「お前が何であろうと、俺はここで止まるわけにはいかないんだ!」
その言葉と共に、勇人は拳を振り上げ、影に向かって全力で突き出した。
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勇人の拳が影に触れた瞬間、不思議な感覚が彼の全身を包んだ。まるで時間が止まったかのように、周りの世界が静止し、影もまた動かなくなった。
「これは……」
勇人はその場に立ち尽くし、周りの状況が変化していくのを見つめていた。影が次第に薄れ、代わりに目の前に広がる光景が映し出され始めた。それは――高校時代の教室だった。
「ここは……?」
勇人は戸惑いながらも、目の前に広がる光景を見つめた。教室の中には直也が座っており、何かに悩んでいるようだった。彼の顔には深い苦悩の色が浮かんでいた。
「直也……」
勇人は彼の名前を呼んだが、直也は彼の存在に気づいていないようだった。これは、勇人の記憶の中の光景か、それとも影の世界が見せる幻なのか――彼にはそれが分からなかった。
直也は何かを決意したかのように立ち上がり、教室を出て行こうとした。その時、勇人は思い出した。この日、直也が何か重大な決断をしたことを。
「これは……直也が……」
その瞬間、勇人の中にある不安が現実のものとなった。直也が影の世界に囚われたのは、この日が原因だったのだろうか。勇人は直也が一人で抱えていた苦悩を理解しようとしたが、その全貌はまだ見えなかった。
「俺が……もっと早く気づいていれば……」
勇人は悔しさに打ちひしがれたが、ここで立ち止まるわけにはいかなかった。直也を救うためには、まず自分がこの影の世界の真実を知り、その闇を打ち破る必要がある。
突然、周りの光景が再び暗闇に包まれた。教室の幻影は消え、勇人は元の迷宮に戻っていた。だが、今度は目の前に新たな道が開けていた。
「次の試練が……」
勇人は深呼吸し、再び歩き出した。迷宮の奥には、まだ何かが待っていることを感じていた。そして、その先に直也を救うための手がかりがあると信じていた。
「必ず……直也を助ける」
勇人の決意はますます強固なものとなり、彼は迷いなく新たな道を進み始めた。
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