第13話 次なる試練の扉

 鏡の部屋を抜け出し、勇人と遼子は光に導かれた先に広がる不気味な回廊に立っていた。ここまでの試練を乗り越えたものの、影の世界の重苦しさは変わらず二人を圧迫している。




「これで終わりってわけじゃなさそうだな……」




 勇人は辺りを見渡しながら呟いた。直也を救うためには、まだ長い道のりが待っているようだった。




「でも、私たちは前に進んでる。きっとこの先に直也がいるはず」




 遼子は勇人に向かって微笑みかけた。彼女の声には、先ほど鏡の試練を乗り越えたことで得た自信が感じられた。二人は再び手を取り合い、回廊の奥へと進み始めた。




 歩みを進めるたびに、回廊の雰囲気はどんどん変わっていく。壁に飾られた古びた絵画や、ひび割れた床が不気味な雰囲気を醸し出していた。何かが二人を見ているような錯覚すら感じさせる。




「この場所は一体……?」




 遼子が疑問を口にしたその瞬間、回廊の先に重厚な扉が見えてきた。その扉には奇妙な模様が刻まれており、まるで何かを封じ込めるためのもののようだった。




「どうやら、次の試練はこの中にあるようだな」




 勇人は扉の前で立ち止まり、慎重にその模様を観察した。模様には不吉な形が描かれており、何か古代の呪文のようにも見える。勇人は一瞬ためらったが、直也を救うためにはこの扉を開くしかないと覚悟を決めた。






 扉を押し開けると、勇人と遼子の目の前には広大な暗闇が広がっていた。しかし、足元には古びた石の床が続いており、その床はどこかに続いているようだった。二人は慎重にその道を進んでいく。




「ここもまた、影の世界の一部か……?」




 遼子がそう言った瞬間、突然、足元の床が揺れ始めた。次の瞬間、二人は暗闇の中に吸い込まれるように落下していった。




「遼子!」




 勇人は叫びながら手を伸ばしたが、遼子の姿は闇の中に消えてしまった。落下は続き、勇人の意識は次第に薄れていく――。






 目を覚ましたとき、勇人は見知らぬ場所に立っていた。そこは巨大な迷宮のような場所で、無数の道が彼の周りに広がっていた。だが、遼子の姿はどこにも見当たらない。




「遼子……! 遼子、どこだ……!」




 勇人は大声で叫んだが、返事はない。彼は焦りと不安に駆られながらも、とにかく前に進むしかないと自分に言い聞かせ、迷宮の一つの道を選んで歩き始めた。




 迷宮の中は異様な静けさに包まれており、彼の足音だけが響いていた。しかし、その静けさの中に、どこか不気味な気配を感じる。まるで誰かが彼を見ているかのようだった。




 しばらく歩き続けると、遠くから誰かの声が聞こえてきた。それは懐かしい声――直也の声だった。




「勇人……助けて……」




 勇人はその声の方に駆け出した。声は次第に大きくなり、直也がすぐ近くにいるように感じた。しかし、道はどんどん複雑になり、まるで彼を惑わせるかのように分岐していく。




「直也! どこにいるんだ!」




 勇人は必死に叫び続けたが、声の主は見つからない。次第に焦りと疲労が彼の体を蝕んでいく。勇人はその場に立ち止まり、深く息をついた。




「どうすればいいんだ……」




 その瞬間、背後から誰かの手が彼の肩に触れた。驚いて振り返ると、そこに立っていたのは――直也だった。






「直也……!」




 勇人は思わず駆け寄り、彼を抱きしめようとした。しかし、直也の表情は冷たく、まるで彼を拒絶するかのようだった。




「お前が来るのが遅すぎた……」




 直也は低い声でそう言い、勇人の目を見つめた。その目には深い悲しみと絶望が宿っていた。




「俺は、もう助からない……ここに来たのはお前自身のためだろう?」




 直也の言葉は、まるで鏡の中の自分が語りかけた時のように、勇人の胸に刺さった。彼は直也を救うためにここに来たはずだが、その言葉は彼の決意を揺るがせた。




「そんなことはない! 俺はお前を救うためにここに来たんだ!」




 勇人は必死に直也に訴えかけたが、直也の表情は変わらなかった。




「お前は……何も変わっていない」




 その言葉を残し、直也の姿は再び闇の中に消えてしまった。勇人はその場に立ち尽くし、何もできない自分を再び痛感した。






 勇人は一人で迷宮の中に取り残された。直也の言葉が彼の心に深い傷を残し、彼は動けなくなってしまった。




「俺は……何をしているんだ……」




 彼は自分の無力さに苛立ち、絶望に打ちひしがれた。しかし、その時、遠くからかすかな光が見えた。それは希望の光だったのかもしれない。




「……まだ終わってない」




 勇人は力を振り絞って立ち上がった。直也を救うためには、たとえどんなに辛くても、どんなに苦しくても、前に進むしかない。彼はその光を目指し、再び歩き出した。




 次なる試練はすぐそこに迫っていた。


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