第12話 囚われた記憶
勇人と遼子は鏡の前に立ち続けていたが、その重圧感は増すばかりだった。鏡は彼らに対して何かを問いかけているように感じられるが、その意味を完全に理解することはできなかった。
「どうすれば……この試練を乗り越えられるのか……」
勇人は自分自身の姿を鏡に映しながら、心の奥底を探ろうとした。しかし、鏡に映るのはただの自分ではなかった。鏡に映る勇人の顔は次第に歪み、暗い感情が表面に浮かび上がってきた。
「これが……俺の心の闇なのか?」
その瞬間、鏡に映る勇人は突然笑い出し、冷たい声で語りかけてきた。
「お前は自分が正しいと思っているが、本当にそうか? 直也を助けたいというのは、ただの偽善ではないか? 結局は自分が罪悪感から逃れるために行動しているだけだ……」
その言葉は、勇人の心に深く突き刺さった。彼は直也を助けたいという強い意志を持ってここまで来た。しかし、鏡の言葉が彼の胸に疑念を植え付けた。
「俺は……本当に直也のためにここにいるのか……?」
勇人は自問自答しながらも、その闇に飲み込まれないように必死に抗った。しかし、その闇はますます強く、彼を支配しようとしていた。
一方、遼子もまた自分自身の心の闇と向き合っていた。鏡の中に映る彼女の姿は、過去の苦い記憶を呼び起こしていた。
「私は……いつも他人に依存してきた……自分では何もできなかった……」
遼子の鏡の中の姿は、彼女がかつて抱いていた劣等感や無力感を象徴していた。過去の失敗や、他人の期待に応えられなかった自分がそこに映し出されていた。
「遼子、お前は弱い……何も変わっていない……だから、勇人に頼っているんだろう?」
鏡の中の自分がそう囁くたびに、遼子の心は揺さぶられた。彼女は勇人とともにここまで来たが、本当に自分は彼の役に立てているのだろうかという不安が湧き上がっていた。
「でも……私は変わるためにここにいる……!」
遼子は自分の心を奮い立たせた。彼女はこれまで他人に頼りきりだった自分を克服し、強くなることを決意していた。それこそが、影の世界で直面している試練に打ち勝つ唯一の方法だと信じた。
勇人と遼子がそれぞれの心の闇と向き合っている中、突然、鏡の中から異様な光が放たれた。部屋全体が一瞬明るくなり、二人は驚いて立ち止まった。
「何が……起きた?」
勇人は警戒しながら鏡に再び目を向けた。すると、鏡の中には過去の記憶が映し出され始めた。映っているのは、勇人と直也、そして遼子が一緒に過ごした高校生活の一場面だった。
「これは……俺たちの思い出だ……」
勇人は懐かしい光景に目を奪われた。しかし、その中には彼が忘れていた、あるいは見過ごしていた出来事が隠されていた。直也が苦しんでいたこと、彼が何かに対して強い不安や孤独を抱いていたことに、勇人は気づいていなかったのだ。
「直也は……ずっと助けを求めていたのに……俺はそれに気づけなかった……」
勇人の胸に、罪悪感が押し寄せた。彼が友人として何もできなかったことが、直也を影の世界に引きずり込むきっかけとなっていたのかもしれない。その思いが、彼の心に深い傷を残していた。
「これが……直也がこの世界に囚われた理由か……」
遼子もまた、自分の無力さに気づいた。彼女も直也の心の叫びに気づけず、ただ傍観者として日々を過ごしていただけだった。そのことが、彼女の心の闇となり、今の試練に繋がっているのだと悟った。
勇人と遼子は互いに目を合わせた。そして、二人はその場で静かに言葉を交わした。
「俺たちは……直也を救うためにここに来た。でも、まず自分たちの心の闇を乗り越えなければならない」
勇人の言葉に、遼子は強く頷いた。
「そうね。自分自身と向き合い、この闇を超えることで、直也を助けることができるかもしれない」
二人は再び鏡に向き直り、それぞれの心の中に潜む不安や疑念に対して強い意志を持ち続けた。勇人は自分が直也に対して抱いていた無力感を受け入れ、遼子もまた自分の弱さを認めることで、一歩前進しようとしていた。
「俺たちは一緒だ。だから、この闇を超えられる」
勇人がそう言って手を差し出すと、遼子もその手をしっかりと握り返した。
二人が心の闇と向き合い、覚悟を決めた瞬間、部屋全体が再び明るくなった。そして、鏡に映っていた過去の記憶がゆっくりと消え、代わりに新たな光が部屋の奥から差し込んできた。
「道が……開かれた」
勇人と遼子はその光に導かれるように歩みを進めた。鏡の試練を乗り越えたことで、彼らは次の段階へと進むことが許されたのだ。
「直也が待っている……必ず助け出そう」
勇人は強い決意を持って言った。遼子も同じ思いで彼に続いた。
影の世界の試練はまだ終わっていない。しかし、彼らは一歩ずつ、確実に真実へと近づいていた。
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