第21話 静寂の中の不穏

 影との戦いを終えた勇人と直也。学校では日常が戻りつつあった。直也も以前のように授業に参加し、友人たちと笑い合う姿が見られるようになった。しかし、二人は完全に安心してはいなかった。影の存在が消えたとしても、すべてが終わったわけではないという不安が、どこか胸に残っていた。




「勇人、最近どう? 直也も元気になったし、そろそろ普通の生活に戻れそうじゃない?」




 放課後、教室で友人の健太が声をかけてきた。彼は勇人と直也が旧校舎に頻繁に出入りしていたことに気づいており、何かあったのではないかと心配していた。




「まあ、そうだな。けど、何があっても油断はできないと思ってる」




 勇人は曖昧に答えたが、健太はそれ以上追及しなかった。直也も徐々に笑顔を取り戻し、影との戦いが嘘のように感じられる日々が続いていた。




 だが、勇人の中には常に警戒心が残っていた。影の脅威が消え去ったとはいえ、まだ何かが終わっていないような気がしていた。






 ある夜、勇人は不思議な夢を見た。夢の中で、彼は再び影の世界に立っていた。周囲には何も存在せず、ただ無音の暗闇が広がっていた。しかし、その中心にはぼんやりとした人影が立っていた。




「誰だ……?」




 勇人が問いかけると、その影はゆっくりと近づいてきた。次第にその輪郭が明瞭になり、現れたのは意外にも直也だった。しかし、この直也はどこか冷たく、彼が知っている直也とは異なっていた。




「直也……?」




 勇人が困惑していると、影の直也は低い声で囁いた。




「すべては終わっていない……勇人……まだ戦いは続いている……」




 その言葉に勇人は背筋が凍る思いがした。影の直也が手を伸ばし、勇人に触れようとした瞬間、彼はハッと目を覚ました。




「夢……か」




 勇人はベッドの中で深呼吸をし、額に浮かんだ汗を拭った。その夢はただの悪夢ではない、何かの予兆のように感じられた。






 翌朝、学校に向かう途中で、勇人はスマホに見覚えのない通知が来ていることに気がついた。それは誰かからのメッセージだったが、送り主の名前は表示されていなかった。




「終わっていない。真実はまだ隠されている。旧校舎へ来い。」




 その内容を見た瞬間、勇人の胸が高鳴った。影に関することなのか、それとも別の何かが待っているのか。誰がこのメッセージを送ってきたのかも分からないが、無視することはできなかった。




「旧校舎か……」




 勇人は迷うことなく、放課後に旧校舎へ向かう決意をした。






 放課後、勇人は再び旧校舎へ足を運んだ。直也には何も告げず、慎重にその場所へ向かった。旧校舎はいつも通りの静けさを保っていたが、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。




「誰がこのメッセージを……?」




 勇人が教室に入ると、そこには一人の人物が立っていた。暗闇に包まれているが、そのシルエットは明らかに人間のものであった。




「お前が……メッセージを送ったのか?」




 勇人が問いかけると、その人物はゆっくりと振り返った。そして、驚くべきことに、それは直也だった。しかし、直也の顔は何かに取り憑かれたかのように冷たい表情を浮かべていた。




「直也……?」




 しかし、その瞬間、直也の体は霧のように消え去り、再び暗闇に包まれた。勇人は自分の目を疑いながらも、そこに立ち尽くした。




「一体何が起こっているんだ……?」




 突然、背後から冷たい風が吹き抜け、教室の扉が音もなく閉じられた。勇人は再び不気味な感覚に包まれた。






 勇人は急いで教室を飛び出し、旧校舎を出ようとしたが、出口はどこかに消え失せ、彼は迷路のように入り組んだ廊下に閉じ込められていた。




「ここは……また影の世界なのか……?」




 勇人は困惑しながらも、自分を冷静に保とうと努めた。しかし、足音が響き渡り、何者かが近づいてくる気配があった。勇人はその足音の主を確認しようとしたが、誰も見えなかった。




「終わっていない……終わらせなければ……」




 勇人の頭の中に、再びあの夢の中の直也の声が響き渡った。彼は何かを感じ取った。影との戦いは終わっていない。この旧校舎に隠されたさらなる真実が、まだ彼を待ち受けているのだ。

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