第20話 影の覚醒
直也を影の世界から救い出した勇人だったが、直也が語った「影はまだ終わっていない」という言葉が頭から離れなかった。影の脅威は再び現れるかもしれない。その思いが勇人を不安にさせ、彼の日常を静かに蝕んでいた。
「本当に……終わったのか?」
学校では日常が戻ったかのように見えたが、勇人の心の中には常に影の存在が残っていた。直也は授業に出席しているものの、どこか魂が抜けたようで、以前のような生気がない。友人たちも彼の変化に気づきつつあったが、何が原因なのかは誰も知らなかった。
「直也、無理はするなよ」
昼休み、勇人は直也に声をかけたが、彼は微笑んで首を振るだけだった。直也は自分の中で何かを抱えているが、それを誰にも話そうとしない。
「もうすぐ、また何かが起こる気がする……」
勇人の直感は正しかった。彼はそれを感じ取っていた。直也の異変が、影とのさらなる戦いの前兆であることを。
その日の放課後、勇人は直也を誘って旧校舎へ向かうことにした。影の世界に繋がっていた場所を再確認し、次の動きを考えるためだ。直也は一瞬ためらったが、勇人に説得されてついてくることにした。
「ここで何かが……」
勇人はあの鏡が置かれていた教室に足を踏み入れた。しかし、鏡は消え失せており、何も異常は見当たらなかった。だが、その瞬間、直也が突然苦しそうに頭を抱え込んだ。
「直也、大丈夫か!?」
直也は何かに襲われているかのように、地面に倒れ込み、苦しげな声を上げた。
「影が……また来る……」
直也はそう呟いた。次の瞬間、教室の空気が変わり、再び黒い影が現れ始めた。勇人はすぐにその異変を感じ取った。
「くそ……またかよ!」
影は徐々に形を成し、教室の中を包み込んでいった。勇人は直也を守ろうと前に立ったが、影の力は以前よりも強力で、簡単には対抗できないことを悟った。
「逃げるしかない!」
勇人は直也を引きずるようにして教室から脱出しようとしたが、影は扉を塞ぎ、二人を閉じ込めようとしていた。
「諦めるな……直也、しっかりしろ!」
勇人は必死に叫びながら、直也を引き起こそうとするが、影の力はますます強まっていく。その時、直也が突然目を開け、勇人に向かって叫んだ。
「勇人……俺を……俺を見捨てろ!」
その言葉に勇人は動揺した。だが、直也は力を振り絞って続けた。
「俺が……俺が影を引き寄せてるんだ……俺を置いていけ!」
勇人はその言葉に怒りを覚えた。直也を助けるためにここまで来たのに、彼を見捨てるなどできるはずがない。
「ふざけるな! お前を置いていけるわけないだろう!」
勇人は決して直也を手放すことはなかった。影が二人を飲み込もうとしている中、勇人は直也を守り抜く決意を新たにした。
影の力が最高潮に達した瞬間、突然教室全体が異次元に飲み込まれるような感覚に襲われた。勇人と直也は、再び影の世界に引き込まれたのだ。
「ここは……またあの場所か?」
勇人が周囲を見回すと、再び歪んだ風景が広がっていた。しかし、前回とは異なり、今回は影そのものがはっきりとした形を持って立ち現れた。
「お前は……一体何者だ?」
勇人は影に向かって問いかけた。すると、影は低い声で答えた。
「私は……直也の恐怖……彼の心に潜む闇だ」
影はその言葉を静かに吐き出した。直也の内なる恐怖が具現化した存在、それがこの影の正体だった。
「直也の恐怖……?」
勇人は驚愕しつつも、影に向き直った。直也の心の闇がこの異次元の世界を作り出していたのだとしたら、その恐怖を克服しなければならない。
「直也、しっかりしろ! お前の恐怖に打ち勝て!」
勇人は直也に向かって叫んだ。しかし、直也は依然として影に支配されており、自らの恐怖を打ち破ることができなかった。
「俺には無理だ……」
直也は弱々しく言い放った。その言葉を聞いた影はさらに大きくなり、二人に迫ってきた。
「そう簡単に諦めるな! お前は一人じゃない!」
勇人は必死に直也を鼓舞し続けた。影はそれに反応するように揺れ動き、一瞬だけ動きを止めた。
「お前が直也の恐怖なら、俺はそれを壊す!」
勇人は影に向かって突進し、その中心へと飛び込んだ。影は一瞬で彼を飲み込もうとしたが、勇人はその中で直也の心に直接呼びかけた。
「直也! お前は俺たちの仲間だ! こんな影に負けるな!」
勇人の言葉が直也に届いた瞬間、影は激しく揺れ動き、次第に消えていった。直也は自分の恐怖に打ち勝ち、影の支配から解放されつつあった。
影が完全に消え去り、勇人と直也は再び現実の教室に戻ってきた。直也は地面に座り込み、深く息をついていた。
「勇人……ありがとう。俺……もう逃げない」
直也は震える声でそう言い、涙をこぼした。彼はついに自分の恐怖と向き合い、克服することができたのだ。
「大丈夫だ、直也。俺たちはこれからも一緒だ」
勇人は直也の肩に手を置き、二人でその場にしばらく座り込んだ。影との戦いは終わったが、新たな決意が二人の心に宿っていた。
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