第23話 影の潜む迷宮

 勇人と亮太は旧校舎の中へと足を踏み入れた。以前とは違う異様な雰囲気が漂っており、まるで建物自体が彼らを飲み込もうとしているかのようだった。




「この場所、前よりも……変わってる気がする」




 勇人が言葉を漏らすと、亮太も頷いた。




「影の力がここで強まっているんだろう。何かがこの空間を歪めているに違いない」




 廊下は以前にも増して複雑で、壁や扉がまるで生き物のように動いているかのようだった。二人は慎重に歩みを進めたが、どこかに隠された罠があることを感じ取っていた。




「ここに何かがあるはずだ。影の正体に繋がる手がかりが……」




 亮太が呟きながら、辺りを見渡した。彼は影の存在に対して敏感になっており、どこかにその痕跡が残っていることを感じていた。








 突然、廊下の奥から不気味な音が響いた。足音でもなく、金属が擦れるような奇妙な音だった。勇人と亮太は一瞬立ち止まり、音のする方に目を向けた。




「来る……!」




 亮太が警告の声を上げた瞬間、暗闇の中から影のような異形の存在が姿を現した。人の形をしているが、全身が黒い霧に包まれており、その姿は明確ではなかった。




「影か……!」




 勇人は恐怖を感じながらも、拳を握りしめた。しかし、亮太は冷静な表情で前に出た。




「俺が奴を引きつける。勇人、お前は隙を見つけて動け!」




 亮太の言葉に従い、勇人は周囲の状況を冷静に観察し始めた。異形の影は亮太に向かって襲いかかり、鋭い爪を振り下ろした。亮太はその攻撃を素早くかわし、逆に影の体に向かって攻撃を仕掛けた。




「逃がさないぞ……!」




 亮太の拳が影の体に直撃するが、その体は霧のように散り、再び形を取り戻す。まるで物理的な攻撃が通じていないかのように、影は不気味に笑いながら彼らを嘲笑っているようだった。








 勇人は焦りを感じながらも、影の動きを観察していた。物理攻撃が効かない以上、何か他の手段を見つけなければならなかった。




「亮太、待て! この影には何か別の弱点があるはずだ」




 勇人が声をかけると、亮太も冷静にその言葉を受け止めた。




「分かった。だが、時間がない……!」




 影の攻撃は次第に激しくなり、亮太は防戦一方となっていた。しかし、勇人は諦めずに影の動きを分析し続けた。




「影が霧のように消える時、その一瞬だけ、実体を失っているように見える……」




 勇人はその瞬間を見逃さなかった。影が攻撃を仕掛ける直前、ほんの一瞬だけ体が不安定になることに気づいたのだ。




「そこだ……!」




 勇人は一気に駆け出し、影の不安定な瞬間を狙って、その中心に拳を突き立てた。瞬間、影は苦しそうな音を立てて崩れ落ち、霧のように消え去った。




「やった……?」




 勇人は息を切らしながら振り返った。亮太もその光景を見つめ、満足げに微笑んだ。




「上手くいったな、勇人。お前の観察力が役に立った」




 しかし、亮太の笑顔も束の間だった。周囲の空気が一変し、再び冷たい風が吹き抜けた。




「これで終わりじゃない……影はまだいる」




 亮太の言葉に勇人も気を引き締めた。今の影はあくまで前兆に過ぎない、本当の脅威はこれからだと感じた。








 影との戦いが一段落した後、勇人と亮太は旧校舎の奥へと進んだ。そこで二人が見つけたのは、かつて直也が倒れ込んだ場所にある、古びた木製の扉だった。




「この先に……何かがある」




 勇人は扉に手をかけたが、何故か強い抵抗を感じた。まるで扉が開かないように、何かが阻止しているかのようだった。




「この扉には……封印が施されている」




 亮太がその封印を見抜き、慎重に調べ始めた。扉の周囲には古い文字が刻まれており、それが何かの儀式的な意味を持っていることが分かった。




「封印か……じゃあ、この奥には何があるんだ?」




 勇人が尋ねると、亮太は静かに答えた。




「恐らく、影の本質に繋がる何かだろう。俺たちはその真実を暴かなければならない」




 二人は封印を解く方法を模索し始めた。亮太の知識を駆使し、古い儀式書や符号を解読しながら、少しずつ封印を解除する手がかりを見つけ出していった。








 封印が解かれると、扉の向こうから冷たい空気が流れ込んできた。勇人と亮太は緊張感を持ちながら、扉の向こうに足を踏み入れた。




 そこには広がる暗闇の中で、不気味に光る紋様が床に刻まれていた。そして、その中心には何かがうごめいていた。




「これが……影の核心か?」




 勇人が近づこうとすると、突然その存在が動き出した。それはただの影ではなく、かつての人間の形を保ちながら、闇に取り込まれた何者かだった。




「これが本当の敵だ……!」




 亮太が声を張り上げた瞬間、二人は再び戦闘態勢に入った。影との次なる戦いが始まろうとしていた。彼らは、影の核心に迫るための最後の試練を乗り越える準備を整えていた。

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