46話 動き出す運命
影の支配者を倒した後、佐和子たちは一時的な静寂を取り戻していた。廃ビルを後にし、彼らは町へと戻ってきたが、影の力が完全に消え去ったわけではないことを肌で感じていた。
「これで終わりじゃないんだな……」
勇人が疲れた様子で呟いた。影の支配者を倒したことによる達成感はあったものの、影の存在が依然として彼らの周囲に漂っていることが分かっていた。
直也はそんな勇人に軽く笑いかけた。「それでも、あいつらの一人を倒したってことは、大きな進展だ。少しは休んでもいいんじゃないか?」
「そうかもね……」勇人は肩の力を抜き、深い息をついた。
だが、佐和子は黙ったまま、何かを考え込んでいた。彼女の中で、影の力が強まったままであることに不安を感じていたのだ。
「佐和子、どうしたの?」
直也が心配そうに声をかける。佐和子は彼を見て、小さく微笑んだが、その笑みには不安の色が隠しきれていなかった。
「……影の力が、私の中でさらに強まってる気がするの。あの支配者を倒した後から、ずっと」
佐和子の言葉に、勇人と直也は驚きの表情を浮かべた。影の力を使いこなすことができるのは強みだが、制御できなければ彼女自身がその力に飲み込まれてしまう可能性があった。
そんな中、彼らの元に深見教授が再び姿を現した。彼は影の支配者を倒したことを聞きつけ、彼らにさらなる助言を与えるためにやってきた。
「君たちが影の支配者を倒したと聞いた。だが、それはほんの始まりに過ぎない」
深見教授は冷静に状況を見つめながら話し始めた。
「影の力が強まるのは当然のことだ。君たちが影に触れるたび、その影響力は拡大していく。影は君たちを支配しようとしている。だが、それを乗り越え、影を完全に制御することができれば、さらに強力な力を手にすることができる」
「どうすればその力を制御できるんですか?」
佐和子は不安そうに問いかけた。影の力は彼女にとって得体の知れないものだったが、完全に制御する方法があるならば知りたかった。
「それは簡単なことではない。影の力は、人間の心に深く根付いている感情に反応する。君自身がその感情と向き合い、影を恐れることなく受け入れることが必要だ」
深見教授の言葉は、佐和子にとって新たな試練を予感させるものであった。彼女は自分の中にある恐れや不安と向き合わなければならないのだ。
「それでも、私にはやるしかないんですね……」
佐和子は決意を新たにし、影の力を完全に制御するための道を歩む覚悟を固めた。
その夜、佐和子たちは深見教授に導かれ、町外れにある古びた神社へと足を運んだ。そこは、かつて影を封印するために使われていた場所であり、深見教授が長年研究してきた場所でもあった。
「ここで影の力を封じ込める儀式を行うことができる。だが、それには君たちが影の本質を理解し、恐れずに向き合うことが必要だ」
神社の中に入ると、古びた木製の祭壇が中央にあり、その周囲には無数の符や呪術的な道具が置かれていた。祭壇の周りには、影の力を封じるための結界が張られていた。
深見教授は慎重に準備を進め、佐和子たちに説明を始めた。
「この結界は影の力を弱めるためのものだが、完全に封じるには、君たちの強い意志と影を克服する力が必要だ。今から行う儀式では、君たちが影に支配されるか、それとも影を支配するかが決まる」
佐和子は深呼吸をし、祭壇の前に立った。彼女の中で影の力が再び活性化し、周囲に黒い霧が立ち込め始めた。
「私は……この影に飲み込まれない」
彼女は強くそう自分に言い聞かせ、目を閉じた。すると、彼女の意識は一瞬にして暗闇の中へと引きずり込まれた。
暗闇の中で、佐和子は自らの影と対峙していた。影は彼女の恐れや不安、過去の後悔を具現化したものであり、その存在は圧倒的な力を持っていた。
「私は、あなたの一部……逃げられないわよ」
影が冷たく囁く。佐和子はその声に怯えながらも、勇気を振り絞り、影と向き合おうとした。
「あなたは私の一部かもしれないけど、私はあなたに支配されるつもりはない。私は……自分自身の意志で生きる」
佐和子は心の中で強く叫び、影に立ち向かう意志を持った。その瞬間、影の姿が少しずつ崩れ始め、やがて光が差し込んできた。
彼女は影を克服し、自分の中の力を完全に受け入れた。その時、彼女の中で何かが変わり始めた。
佐和子が目を開けると、彼女の周囲の黒い霧は消え去り、神社の中には静寂が戻っていた。深見教授と勇人、直也が彼女を見守っていたが、その目には驚きの色が浮かんでいた。
「佐和子……君は……」
深見教授が口を開いた。彼女の体からは、影の力が完全に制御された証として、静かな力が放たれていた。彼女は影を克服し、力を自分のものとしたのだ。
「これで、私は影に支配されることはない……」
佐和子は自信に満ちた声で言った。彼女は今、新たな力と共に、次なる戦いへと進む準備が整ったのだ。
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