第35話 資金が心細いのでクエスト請けることにする
もう向こう側に行くつもり満々だったので、自国通貨は片っ端から両替したので、少しこっちの通貨が心細くなってきた。
マイバッグ持ちが大量廃業したことで隣国との貿易は事実上無くなっているため、街で隣国通貨は二束三文で両替出来ている。それなりの額になってるはずだが、隣国には生活基盤がないので、ただそこに滞在するだけでカネが掛かる。田舎の土地持ちが、年収200万もありゃ大丈夫だよとふざけたことを言ってるが、地に足ついた土地持ちには家賃も食費も光熱費もほとんど掛からないためその現金収入はそのまま可処分だが、生活基盤から疎外された都市労働者にとっては、年収200万のうち50万は税金に持っていかれ、70万は家賃に持っていかれ、10万は水道光熱費に持っていかれ食費も月4万程度でなんとかしなくてはならない。そのうえで余る分などほとんどない。都市労働者でさえガッツリ地に足ついた人の実質10倍必要なのだから風来人のバローたちは100倍持ってても足りないくらいだ。それが求めたものか疎外されてやむなくそこに押し込められたにせよ「自由」の代償なのだ。
両替しきってから向こうに行こうと思ってたのにまだ向こうの通貨を受け取り切れてない。待つにも滞在費が掛かるのでどうせヒマだからクエストでも受けることにしよう。
ギルドに適当なクエストが無いかと見ていたら、山脈地帯の国境付近に生息する火竜の駆除というクエストを見つけた。発注主は両替を断られたあのにっくき証券会社だ……。あっ!(察し)
ちゃんと現物を用意する意思があるとは感心感心。しかし火竜か。そりゃ貿易も下火にもなるわけだ。そしてどうせ自分でも行かなきゃならないのだから、報酬付きで街道を整備するほうが良いよな。即断でクエスト受注する。
―――
火竜駆除と言うクエストだが、バローの装備は特にいつもと変わらない。バッグに入荷するだけの簡単なお仕事です。ハイ。
緊張感ってもんがないよな。要らんけど。
カスミに至っては完全にピクニックモードでお弁当作ってる。まあ、バッグがなくてもコイツのとこだから鷲掴みにしてそのまま〆てタンパク質の補給とか言いそうだし。
とりあえず襲撃してきたら問答無用で入荷する以外は適当に見繕うこととする。そもそも何羽くらいおるんやろ。中距離なら矢印がでて選び放題。襲ってきたら自動入荷。楽勝だね。
そしてピクニックモードで街道をゆく。そう。この道は登山道などではなくもともとは流通、貿易の要として機能していた整備された街道なのだ。ただし、商人が天秤棒担いで徒歩で輸送していた時代の。モータリゼーションの波に置いていかれてここを通るものはよほどの好き者か廃道マニアだが、まだきっちりと国道指定は残っているし整備に予算が使われていることになってる。どう考えても途中で誰かが抜いてるよなw
そして頂上にある国境にさしかかる場所に迫った時、山の向こう側に矢印が3つ出ている。なるほど火竜は三羽おるのか。
国境の関所は朽ち果てたポストと書けないボールペンとぼろぼろのザラ紙が置かれているだけだ。おかしいな。ここ確か有人で荷物のあらためがあって関税とか取られたはずなんだけど。誰も見てないと思って予算ナイナイしたな。だいたいあの八百子でさえ品行方正な令嬢さまとして通用する荒んだ国だからしゃあねえな。
一応入出国手続きはここに名前書いてポスト投函しとくだけで完了。それすらきっと集めに来てない。
矢印の方向に歩いていくと、美しい少女が歩いてきた。しかし頭上にしっかり「入荷可能」という矢印を引き連れている。これは、竜は人化出来るというラノベ定番のお約束!
「美しいお嬢さん、ここは危ないからおうちに帰ろうね。」
これを駆除なんてしたら何言われるかわからん。クエスト失敗だ。
「へーきだよ!つよーいお姉ちゃんとお父さんがいるから」
「だからそのつよーいお姉ちゃんとお父さんのいるおうちから離れないようにね。」
火竜が出るからと言うのは伏せておく。なにせコイツがその火竜の人化した姿なのは分かってるから。
「カスミ…ちょっと……。」
カスミに耳打ちする。コイツがその火竜だが手出し無用だと、そして調査のために少し尾行するということも。男ってのはみんなそうねと呆れられたが、特に襲撃を受けたとかでないからしぶしぶ同意してもらえた。
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