第29話 捜査中断
忍び込むのを諦めて正面突破しようとするカスミを宥めて、やっとのこさやめさせる。命あっての物種なんだから、話がデカくなりそうな気配を察知したら、そこで一時中断して顧客の意思を確認するべきだ。一度持ち帰り。
仕掛かり中間成果物となる調査ファイルと接収した兵器を提出し、捜査中断を切り出した。
「申し訳ありませんが、これ以上の捜査には危険が伴いますので、この仕事降りさせていただきます。」
「なるほど。わかった。このクエスト単体では成功とします。そのようにギルドに伝えておきますわ。」
へ?失敗じゃないの?
「ガンギ・マリーが軍用ヘリ、対地ミサイル、大量のメタンフェタミンを用意してるという情報の価値はそれなりに高いのよ。ヤツは尻尾つかませないから。つまり部屋の中の象を可視化した。部屋の中の象は可視化されたらただの象よ。軍用ヘリ、対地ミサイルの接収はお手柄ね。メタンフェタミンは接収してこないあたり、わかってるじゃないの!」
武装蜂起を計画してたガンギ・マリーは兵器がなくなった事に気付いたなら次は見せしめに内部の者を生贄にして組織の締め付けをするだろうし、欠けた兵器の穴埋めを購入するか裏で糸を引いてる勢力によって運び込まれるだろう。それを監視する予算を取るのに必要な動かぬ証拠を得てきた。
薬物はその場で合成している可能性があるため、道路を監視してもバレずに在庫が作られる可能性が高く、単なる骨折り損になる。
「とりあえず、部屋の中の象を部屋の中でなくしたからこの案件は成功です。次の一手で協力お願いするかもしれないけど、今は私が考えるターン。いったんこの案件は終わり。報酬はこちら。」
ジャラジャラと金貨が詰まったガッツリ重い袋を頂いた。ちなみにこの国では金貨も一応法定通貨となっているが、普通に流通しているものではなく、カネの流れを特定させないための匿名取引用通貨として使われている。両替商あるいは金取引所にて紙幣、銀貨、銅貨と交換して使う。もちろん法定通貨としているのでそのまま使っても良いのだが、常識がない人だと思われる。それがジャラジャラ重たいほどあるというのは、かなりのデカい支払いなのだ。
「これでしばらくは発泡酒でない本物のビールが飲めるよ」
「アンタたち貧乏症が骨の髄まで染み込んでるわね……。この額もらっておいてビールがどうのこうのっておかしくない?」
「カスミが鯨飲馬食だからな。割り勘負けするんだ。しかしカスミがいてこそのうちのパーティーだからそれも必要経費。」
―――
そんなこんながあって、お後よろしくと仕事に一区切り付けて、今日はクエスト受けずに真っ昼間からビール。
「ホントにこれで良かったんだよな?」
「依頼主がオッケーと言ったらそれでオッケー。」
何も退治してないと思うが、解き放たれた象は部屋の中の象ではなくなった=部屋の中の象は退治されたというゴリ押しで成功だと言われてしまったのでそれで良し……なんだろう。
もしやこの結果も、見て見ぬふりせざるを得ない部屋の中の象という性質なのかもしれないが、みんなが見て見ぬふりしている間に随分と凶悪に育った部屋の中の象だこと……。野に放つのはもう手遅れだったような気がするが。
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