第11話 何かが起こる前のレベルアップ
♪タラッタターン タララタラリラ タララララーン
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バローのマイバッグを
お値段そのまま従来品比300%容量アップ。
季節の食材や特売情報など旬の情報をリアルタイムにお届け。とってもおトクなスマホアプリ連携機能が追加されました。
チェーンストア機能で仲間のバックへ格納物資の送付とお取り寄せが可能(スマホアプリによる認証が必須)
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容量3倍アップは魅力的だがなんなのそのスマホアプリ連携とかチェーンストア機能って。
チャックを開いてレベル6アップデートの概要を読む。また相変わらず「お客様に愛され続けてはや12年4ヶ月、この度レベル6をリリースできることを嬉しく思います……云々……思えばあの頃は……」と時事ネタやら開発者の惚気話やら季節の食べ物とかの意味をなさない駄文(しかもほとんど前読んだのと同じ)を五万文字ぐらい読まされた。いちいち腹立つわ!開発チームとの交換日記かよ!
そして読む気が失せるレベルアップ概要の後半に差し掛かった半分くらいの場所に、ようやく重要な注意書きを発見。最初でも最終部でもない中途半端で一番見落とす人が出そうなところに配置されてる。
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・レベルアップを始めると3日間ストレージにアクセスできなくなります。
・レベルアップ中に内容物が破損または漏洩する恐れがあります。レベルアップ作業前には必ず中を空にしてください。
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なお、この重要な注意書きのあとにも「むすびに……」とやはりどうでもいい決まり切った挨拶やら末永くお使いいただけますようとかがやはり1万文字くらい続く。
レベルアップには事前準備や、少なくとも3日間のクールタイムが必要で今すぐにレベルアップというわけにいかないようだ。そういう大事なことは一番はじめに書いておけよ。
とりあえず今回のレベルアップは今は見送り。落ち着いたらレベルアップしよう。バローにとってマイバッグはほぼ唯一の攻撃手段であり財産の置き場所。これなしで3日間過ごさないとならないというのは充分死ねる。
目の前にレベルアップがあるのにお預けってなんの罰ゲームですか?しかしここで死ぬわけには行かない。だいたい、こういう長時間の無防備状態になったときに限って面倒事に巻き込まれるフラグだ。それに、前回は有無を言わせず強制的にレベルアップされたのに、今回は確認があるのってどういうことだ?
「とりあえずレベルアップのために出せるものは出して処分するか。」
冒険者ギルドに御用聞きに行くと、何故か突然売り込みがありどの品目も倉庫が飽和状態でもう買い取れないと言われた。
同じマイバッグを持つ者たちの考えることは一緒だったようだ。
ふと考えてみたら、向こう3日間にマジックバッグを使える状態なのは少数派なのではないだろうか?ここはこの独特な状態で何か商売できないだろうか?出来ないな。
そう思ってギルドを去ろうとしたら受付で揉めている。
「てめぇ、今日は買い取りできねえってのはどういう了見だ!」
「当分の間、ほとんどの品目が在庫過多なんです。買い取りは出来ません。」
「即金が必要なんだよ!安くていいから買ってくれ!」
「本当にもう倉庫パンパンで1グラムも買えないんです。わかってください。」
「一昨日来てくれれば不足してたんですが、昨日からバカみたいに買取が入りまして。お察しください」
「肉は足が速いんだよ。待ってたら腐っちまう!もう10キロあたり1円でいいから引き取ってくれないか?」
「ですから、本当に受け入れ先が空いてないんです。」
……押し問答だ。両者とも一歩も引かない。
しかしこれ、もしかしたら、レベルアップ見送ったオレの出番ってやつじゃない?
「よければ、いくらか空間融通しますよ」
バローがふたりとの交渉に向かう。どちらかというとまた肉を増やされるよりはギルド倉庫から一時預かりって方向、いや溢れかえった高級アイテムを買い叩きたいという方向で考えている。
「じゃあ肉を預かっててくれないか。」
やっぱりな。この鮮度保持のマジックバッグに入れるものは常温保存しておくと悪くなるものと相場が決まってる。倉庫業の料金は期間と容量で課金される。しかし長くなる場合にはいったん倉庫業者が買い取り、倉庫業者から買うという形を取ることもある。買い取るにも手持ちはほとんどない。
「手持ちがなくて……。所有権はそちらに保持して倉庫としての料金にしてくれませんか?」
「じゃあ、この冒険者との相対で買い取ってやってくれ。受付の権限で仕入れ値より安く売ることはできないからな。」
そうして、冒険者から二束三文で猛牛タウラスの肉を1tを買い取ることになったが、素寒貧になってしまった。あと2日引きこもるしかない。いや、食い物はマイバッグ内に捨てるほどあるから悲観はしてないけど……。
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