第23話 スタンピード発生

 いつも通り、冒険者ギルドで塩枝豆で発泡酒煽ってると受付嬢に見つかり、いきなり緊急クエストを告げられた。


「ギルドからの緊急クエストです。ダンジョンからスタンピードが発生しました。猛牛タウラスが群れを成してこの街に向かっています。対応に各パーティーは協力する義務があります。」


 うるせぇバロー💢。勝手な時だけ都合よく使いやがって。オレたちゃやらんぞ。


「報酬は?」


「生涯にわたる栄誉です」


 食えねえヤツじゃないか。オレたちゃ栄誉やら名誉やらで腹は膨れないし、塩枝豆と発泡酒を栄誉やら名誉によってチーズと、発泡酒でない本物のビールにすることはできない。それを可能にするのはカネ。


「嬢ちゃんよ、冗談は顔だけにしといてくれないか。オレたちランクのせいでいつも飢えてんだ。なんでギルドから何の恩恵もない入門クラスのFランクとGランク冒険者がギルドからの依頼は受けなきゃならねえんだ?てめえらギブアンドテイクじゃなくてテイクテイクテイクじゃねえか。」


「この依頼で功績を上げればお二方ともDランクへの昇格を前向きに善処する方向で検討することを約束します。」


 バロー!それって検討だけしてやっぱりヤンピっていう気満々じゃねえか。


「じゃあパーティーとしてもスタンピード対策への協力のほうも『前向きに善処する方向で検討』させてもらうよ。」


「そっちは検討じゃなくて協力しなさい!この庶民どもが」


あ〜あ。身分差別根性丸出しの情けない口先だけ勇ましい卑怯者のそれだよ。


「じゃあ、前向きに善処する方向で検討じゃなくて、メンバーとパーティーのクラスをCに今すぐ上げろ、そして今回のスタンピード対策の指揮を取らせろ。他パーティーが俺の指示に従わない場合その瞬間協力を放棄する。それならこちらも検討じゃなくて協力してやる。それがフェアな取引ってもんだろう?」


「なっ、なにを〜!このFランが💢」


「お前ら権力者はいっつもそうじゃないか。餌をぶら下げて、身内のヤラセのひとりだけおいしい思いさせてそれに続けとばかりに旗振るけど、あとに続くのは実質タダ働き。踊らされたら損をする。だから受けない。どうせヤラセの一人だって得た利益還元させてマネロンでもして公金をお前ら上級国民の間で私物化してるんだろ?わかってるぞ。」


 ぶっちゃけるとやりたくないから受ける条件を吹っ掛けた。上位ランク冒険者たちがFランの俺の言う事聞くわけないじゃないかw

もし何かの手違いではじめだけ取り付けてきたとしても、言うこと聞かないからと言ってその場で放棄するつもりだ。


「……わかりました。上と掛け合って来ます。その代わり受けてくれますね?」


 マジで?話ややこしくなるから一笑に伏して、この話はなかったことでってならないの?しかし一度吹っかけた以上あとには引けない。ちゃんと考えがあるように虚勢張らないと。


「うちは先払いだよ。ランク昇級したこと、明確に他パーティーの指揮権を得られたことを確認してから動く。先貸しは一切無しだ。いつもいつも言うこと聞くと思ったら大間違いだ。先に誠意を示せ。それに応えるのは後だ。」


「はぁ……。仕方ありません。今となってはこの街でマジックバッグ使えるのはバローさんだけですから……。」


 そう言うと受付嬢はギルドマスター室へと向かっていった。本当に掛け合うの?そんなバカ条件を?

 弱みに付け込んで自分のスキルを高く売りつけちゃった構図なの?それならそのこと先に言え。絶対受け入れられないように条件もっと引き上げるから。

 まぁ、受付嬢とギルマスが納得しても個別の上位冒険者たちが言う事聞くわけがない。FランクがAからDランクを指揮するだなんて何の悪い冗談だ。どうせ言う事聞くはずもなく協力者は集まらないだろうから気にせず塩枝豆を舐めて発泡酒を呑むのに戻る。


 しばらくすると、なぜか、AランクからGランクまでこのギルドに所属する冒険者たちがもそもそと本当に集まってきた。


「バロー先生、カスミ先生、今日はひとつよろしくお願いします。」


今をときめく大所帯のAランクパーティー【正義の天秤ライブラ・オブ・ジャスティス】のリーダーのテラオカさんが敬々しく挨拶してきた。一応バローは勇者パーティー所属だったので、当時の関係でほぼ対等に話せる数少ないAランクパーティーリーダーだが、彼のほうが普通に上位冒険者であり、向こうがへりくだるのはちょっと無い。いったいギルドはどうやって頼んだんだ?


「今日、お肉の在庫処分と新鮮お肉の特売日と聞いて」


 あ~。なるほどね。完全に理解できた。

さっそくマイバッグに猛牛タウラスの食肉に適した各部位を仕入れ予約し、自動仕入れを街の外と内の境目付近にセットしONにする。この案件でやることはたったこれだけですべて完了だ。あとは集まってくれた各冒険者たちにBBQの準備をさせるだけだ。やっとマイバッグ無双らしくなってきた。

 カスミは忍者刀ならぬ牛刀とマグロ包丁を構えて、肉の到着を待っている。準備万端。あとは食材がネギ背負って向こうからやってくるのを待つだけ。


 なるほど、そりゃマジックバッグ持ちなら誰でも良くて、上位冒険者も言う事聞く(やることと言ったら飯食うだけだし。)わけだわ。

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