第32話 乱暴者乱入とショットガンウェディング

 ところで、カスミはその容姿だけなら美少女だ。………美少女なの!大事なことだから二回言いました。

 だから遠目でスケール感が無いとナンパしたくなるのは男の性というものだ。おじさんにはよーくわかる。

 しかし大抵の場合近付いて見上げるほどの大きさに気づいたとき、そそくさと立ち去る。

 しかし遠方から大声で声を掛けた場合引き下がれない……。この哀れな男はそんな一人だ。


「ボクのおごりでお茶しようって言ったわよね?」


 手には発泡酒でもその他雑種でもない正真正銘の本物のビールをピッチャーで持っている。これも哀れな男のおごりだ。なお、ピッチャーもカスミの手に持たれたら中ジョッキよりも小ぶりなジョッキにしか見えないが、それでも確かにピッチャーなのだ。


 「いや、お茶であってビールとは言ってな……」


「はあ?何か言ったかしら?」


「は、はぃぃぃ、何でもありません。どんどんおかわりしていってください。」


男よ。気持ちよくわかるぞ。オレも見た目に騙されて、ダンジョンから脱出するには組むしかなかったから生きるか死ぬかで安全を選んだ結果行動を共にするようになったのがきっかけだ。


バタン!

「おい!キタタロー!居るか!」


 オレも塩枝豆で発泡酒を飲んでいると大柄な男が子分みたいなのをわさわさ引き連れて冒険者ギルドに押し入ってきた。入ってくるなりお前二階北側、お前南側、トイレ、給湯室といきなり担当割り振りして子分たちが散っていた。


 うわっヤバ……っとさっきまでカスミに、発泡酒でもその他雑酒でもない本物のビールをピッチャーでたかられていた男がこそこそと逃げ出そうとしたところをカスミに猫みたいに捕まえられた。


「お会計はちゃんとボク持ちでしますし、事情は説明しますから、今はあなたのためにも少しボクと離れててください。」


 よくわからんまま、キタタローと呼ばれた男を解放すると窓の隙間から外に逃げ出した。本当に猫みたいなやっちゃな。


 大柄な親分みたいなのが、ショットガン担いで俺のところに来た。


「こんな男見なかったか?」


 うーん、さっきカスミにせびられていた男だ。

「ええ、知ってますよ。それではどうしてあなたはこの人をお探しなのでしょうか。」


 この男の娘がキタタローと寝て妊娠したので結婚か死を選べと迫るのだと言うことだ。うわぁ、ショットガン・ウェディングって本当にあったんだ。まあ、自業自得だし、結婚すりゃいいだけならええやん。この果報者!リア充爆発しろ。


「そこの窓からすり抜けていきましたよ。」


「ご協力感謝する。」


なんだ、別に普通の人やん。ガラの悪い子分引き連れてるのはちょっと引いたけど。


「親分!見つけやした!」


 屈強な男がさっきまでカスミと飲んでたあの男を猫みたいにつまんで報告してる。あぁ、悲しい酒やね。


「結婚か死を!」


子分たちが一斉に声を上げる。


 さっきの男が顔面蒼白になりながら


「結婚します。」


と答える。一斉に拍手が上がり、令嬢が出てきて、

「こんな私でよければ。不束者ですがよろしくお願いします。」


なんだ、別嬪さんやし礼儀も弁えてる普通の人やん。逃げることないのに……。


さっきまで殺気に満ちていた親分みたいなのが破顔し、


「めでたい。うちの娘の新たなる一歩を祝して今日のここの飲み代はここにいる全員儂のおごりとする!みんな好きなもの頼んでくれ!」


あぁ、これを狙ってたのね。策士やの。


「では、僭越ながら……」


 新郎さんが備え付けのオルガンに座り、バラードを演奏する。一芸あるのって羨ましいね。


 柔らかい音色の妙に落ち着く曲だった。カスミの飲み代もあの親分負担だ。良かった良かった。



ーーー

※作者より:本当は乱暴者がカスミに突っかかりそれを二人でボコるというストーリーにしようと思ってたんですけど、折角のカスミの設定が生きてこないので、グダグダになりましたが、ちゃんと次仕切り直して、定番のそれをやります。

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