第7話 冒険者ギルドにて
ダンジョンを無事脱出出来た俺たちは、マイバッグの中味を解放するために冒険者ギルドへと向かう。マイバッグの容量の大半が水と武具一式だったので、武具一式は拾得物として預けておくことにした。
受付嬢のマツモトは少し困った様子をしてる。どういうことだ?
「これ、脱がれてそれほど時が経ってなさそうですけど、盗品じゃないですよね?」
盗品ではない。オレを襲おうとしてきた奴らから剥いだものだが、断じて盗んだわけではない。強奪したものだ(余計悪い)
「盗品になってたかどうかは知りませんが私が拾った時にはダンジョンに落ちてました、本来の持ち主に返してあげてください。」
「いえ、あなたが盗んでないなら大丈夫です。」
「盗んでわざわざ拾得品に届けると思います?盗んだなら溶かすなりしてアシのつかない方法で転売しますよ。」
「受け付けました。半年して持ち主が出てこない場合あなたのものになります。」
まあ、どうなることやら。
「それと素材の買取りお願いします。」
マジックバッグから金目になりそうで問題なさそうなものに限定して取り出す。重量にして2t半あるが、品目ごとにちょびちょび出す。食糧の保存はマイバッグ内のほうが長持ちする。
在庫が余ってる品目の場合やあまりに大量にある場合はギルドであろうと買取拒否する。ほぼ定額で買い取るのは倉庫残量に対して普通の冒険者が持ち込める量がたかが知れてるからだが、ストアのスキル持ちやマジックバッグ持ちは警戒されて毎回時価を相対で決める。
他方で物資が不足したときにはマジックバッグ持ちに、在庫確認がゆき高単価プラス呼び出し手数料が付く時もある。要は他と違うがプラマイでとんとんということだ。うまくできている。
それ故、通常ストアのスキルをもって生まれた人はこの取引慣行において有利な取引の比率を増やし不利な取引の比率を減らすために商人を目指す。余ったところで在庫を入手し、それを色つけてでも欲しい人がたくさんいる場所に持っていくことで需給マッチングという価値を生み出すという仕事だ。しかしバローは商人ではなく冒険者の道を選んだ。
需給マッチングは輸送技術の発達に伴いいずれ無くなる、現状の妥協が生み出した腐れ制度を前提にしている。制度に深く腰掛けてると制度がなくなったとき右往左往するから実力をつけておきたかったというのもあるが、ゼロから価値を生み出す採集や農耕を無しにモノを右から左に動かすだけでマージンを取っているというのは、いずれ中間マージンの価格競争が始まり限りなく利潤がゼロに近づいていく。そしてコモディティ化した流通業は人間を疎外し、システムがシステムのために人を食うようになる。
だから来たるべきその日のために冒険者としての採集のスキルを磨いていくのだ。
そんなこんなで換金は相場を動かさない程度に割のいいものだけ売る。やはりマイバッグには水が大量に残った。捨ててもいいがこれは清浄な水。使い途は無限大。
まあ12tも空きスペースがあればしばらくは大丈夫だ。
「はい、今回の売り上げ。カスミちゃんの分。」
貴重な魔石や肉のほとんどはカスミの仕事だから売り上げた額の8割を渡す。在庫に半分くらい回した分があるのでそれ以上がめるとカスミに殺されちゃう。
うんっと言って受け取ってくれたのは良かったのだが、そのまま受付に走っていった。
「あと、パーティー申請お願いします!」
えっ?と思っていると、スラスラと書類を書き上げて、あとはオレの名前とパーティー名を書くだけにして持ってきた。
「これからも人生のパートナーとしてよろしくね!バロー!」
おいこら!このパーティーはダンジョンから生還するまでの臨時パーティーだ……といったところで向こうがその気なら逆らうべきではないな。こっちもフリーなんだし。
「そっか……。パーティー組んだのは俺が初めてだって言ってたよな。次のパーティーが見つかるまでは腰掛けにこのパーティーを存続させてもいいよな。ところで、パーティー名はなんとする?」
【勇者パーティーの横暴を許さない市民の集い。】
何その活動家みたいなパーティー名……。たった2人なのに市民の集いとはこれいかに?
難色を示していると悟ったのか、カスミは少しトーンダウンして次のパーティー名の候補を挙げた。
【勇者パーティー被害者の会】
いやまあ、2人ともそれぞれ忍者の里から追放されたカスミに、勇者認定を受けてる剣聖マツサカの勇者パーティーによって追放された身(カスミはそもそもどのパーティーにも入れてもらえなかったようだが、忍者の里を取り仕切るお頭が勇者認定を受けているので忍者の里全体が勇者パーティーともいえる)。ともに勇者パーティー被害者であるから2人だけといっても会なら問題ないだろう。市民の集いはどう考えても二桁から三桁は必要だぜ。
こうして、のちに構成員全員が勇者の認定を受ける勇者パーティ【被害者の会】が結成された。もともとは勇者パーティーに被害を受けた集まりだったのに、自分たちがひとつの勇者パーティーになってしまうとはこの時の二人には想像もつかなかった。
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