第6話 カスミの悩み
「私どうしても目立ってしまって、忍者に向いてない、才能なしだって誰もパーティー組んでくれなくて……。バローさんが初めてなんです。」
うん。彼女は絶対に忍者に向いてない。それは確かだ。標的以外に飛び火しないようにこっそりと静かに標的を始末したり、標的を手籠めにして問題が顕在化する前に、その問題がなかったことにするのが忍者の本分。
都市もろとも焼き払うのは軍隊のやることで、もはやそれは戦争が始まってる状態だ。戦争になる前に静かにその火種を消して戦争を防ぐという活人剣の使い手が忍者であって、大規模破壊とは根本的に役割が違う。
「いや、今は過去に囚われてる場合じゃない。このダンジョンから抜けるのが先だ。頼りにしてるよ。よろしくな、カスミ。」
カスミはぱぁぁと顔を赤らめて、
「ええっ、こんな私でよければよろしくお願いします。バロー……。」
えっと……。そんな重いこと言ってません、その反応ヘンです。ダンジョン抜けたら解散ですよ……。いや、いまはまだそのことは触れないほうがいいだろう。変なこと言ってこの娘を刺激するほうがよっぽど危ない。
―――
結論から言うと、カスミと行動を共にしたのは大正解だった。マイバッグにはドロップ品や素材などを格納していって容量上限に引っかかって整理しないと攻撃することが出来ないタイミングでオークや猛牛タウラスの群れに襲われて、欲張って容量いっぱいにまでドロップ品を格納したことを後悔したが、カスミが事前に出していた解体用牛刀を使って生きたまま解体して新鮮なお肉にしてくれた。そして在庫管理で食糧系のものを取り出してBBQ。
肉は寝かしたほうがおいしい(というより血抜きして寝かすのは必須)というが、一度バッグに入れて払い出すと綺麗に食肉と水と不要成分に分類してくれる。不要成分も鉄やらなんやらと価値があるように表示されるので捨てる判断に困るが、要領を掴んでしまえば割り切って廃棄できるようになった。
しかし、カスミには
余裕でダンジョン中層部をクリアし、浅層部に上がる階段を前に、カスミが震えている。なぜ?あとは楽勝モードじゃない?
「上には、私の天敵ゴキブリンがものすごい数います。どうしてもそこを抜けないと駄目ですか……。」
上目使いで、お願いどうにかしてとアピールしてくるんだが、視線をあわせるために座って上目遣いしてるのがシュールだ。姿勢による立場関係って絶対あるよな〜。
「オレ、逆に聞きたいんだが、どうしてオークやらリッチやら猛牛タウラス倒せるのにゴキブリンごときに苦戦するんだ?」
「あのカサコソとちょこまか動き回るのがダメなんです。あとバタバタと飛ぶのとか見るともう血の気が引いてしまいます。」
なぜ???
はっきり言ってゴキブリンなんかザコ中のザコだ。なんならスライム倒せなくてもゴキブリンなら倒せるという冒険者も多い。猛牛タウラス倒せて一人前、オーク倒せれば上位冒険者だ。リッチに至っては数限られたエリート中のエリートのみが一体相手に生命の駆け引きをして、そのまま命を落とすものも枚挙にいとまがない。
リッチの集団相手に攻撃を受けとめたうえで一体一体ボリボリと踊り食いするなんて勇者伝説でも聞かない前人未到の領域だ。ランク付け不可能の測定限界以上。既存のランクにないからそれこそ「カスミ級」みたいに、ランク名として固有名詞が付くレベルだ。それがゴキブリンごときに翻弄されるって。やっぱり女さんってよくわからない。
「スライムも無理とか言わないよな?」
「あー、あれは苦手ですけど確実に倒せます。ゴキブリンは無理ですけど。」
このくのいち冒険者は確かに、スライムに苦戦してゴキブリンは倒せない、この側面だけなら正真正銘の初心者と同じなのか。
しゃあない。ゴキブリン生体、大蛾生体を半径5メートル以内に入ったらマイバッグに自動入荷にして浅層を駆け抜ける。数字はえらいことになるが、容量はほとんど食わないから大丈夫。
こうしてダンジョンから無事生還した。ゴキブリンなんか要らないから即座に自動入荷を切る。
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