第4話 ヒロインを拾うん?拾えん?拾おう

 拉致ってしまった52人のうち50人は前パーティーとその回し者なのでどうなろうと後ろめたいことは何もない。なんならこれでも甘すぎるとさえ思ってる。しかし、残り2人は被害者だ。事情を説明して謝罪するしかない。こっちは防具と最低限の護身具は付けさせて。向こうは一度には出さずに一人づつ丸腰で。一見男らしくなくカッコ悪いが、綺麗事じゃ世の中回らない。ダンジョンの掟はやるかやられるか、食うか食われるか。激ダサでも安全を取る。

 キレたらいつでもヤルぞという予防線的な威圧のためだ。そうはいっても基本的に平謝りになるだろう。


 1人目に中年男性を取り出すことにした。野郎には興味ない。見つからないならそれに越したことはないが、見つかったとしても謝罪して渡すもん渡してお引き取り願おう。 


 武具持参は前パーティーの回し者たちだけで残りの2人はもともと武具を装備してなかったから返すものは無い。バッグ曰くの「衣類と暮らしの小物」(お前はスーパーのフロア名か?)を装備させてバッグから取り出す。


 イェンダーの魔除けを装備し、祝福された燃えないアロハシャツに身を包み、カメラを下げてるメガネの中年だ……職業ジョブは観光客だろうか……なのにイェンダーの魔除けを持っているとは相当な猛者かもしれない。丸腰とは言え勝てる気がしない。かかわらないのがよさそうだ。


 さて、本日のヤマ場!おたのしみの少女の方だ。画面から得られる情報で、容姿端麗なのはわかってる。出す場所と出くわす場所工夫してカッコいいところ見せて口説き落とすぜ!


 といっても……武術てんでだめ、身のこなしダサいオレがカッコいいとこ見せることは出来ないな……。さてどうすれば落とせるか……。基本的にその意図はなかったしそれこそ今この状態からならこっちが生殺与奪の権を握ってる圧倒的強者だが、ひとたびマイバッグから解放したらこっちは加害者で向こうは被害者だ。マイバッグは今の現物に関しては事細かに事実のみ分かるが、今そこに持ってないモノや今までどんな暮らしをしてきたかとかの背景情報は一切わからない。


 それを知りたければ解放して語るしかないし、語ったところで本当のことを教えてくれるとは限らない。とりあえず、拉致したという事実は伏せて少し離れたところから様子を見て、ここぞという時に恩を売る方針で行くか。本人からすると突然、転移させられたようにしか感じないはずだ。そうと決まれば、向こうから見えないダンジョンの角に隠れて被害者を遠隔地出荷だ。


―――

 ボワッと現れた少女は予想以上に大きい。容姿端麗な画像に騙された。身長2メートルを超える怪物だ……。ボンキュッボンな体形なのに萌え絵風ロリ顔……で巨大だ。何やこいつ。いや、大きさと形だけならテーマパークやデパートのキャンペーンなどで見る、着ぐるみみたいな大きさだ。しかし肌のツヤが全然違う。着ぐるみの布地のような肌色ではなくて、遠目にもわかる。本物の肌だけが持つ質感。


 頭を抱える……。なんなんだこの人。口説き落とすと決めてたが、本当にアタックするの?はっきりとヘンだよこの人。


 少し進むとリッチの大群にばったり遭遇した。神出鬼没にちょこまかと動きまわり、一撃でも精神攻撃魔法を浴びると精神崩壊して廃人になるという強烈な精神攻撃魔法を使う骸骨のモンスターだ。しかも物理でも暖簾に腕押しという感じでダメージ入れられないのにやたら重たいパンチを食らわしてくるという、バローも絶対に勝てないかなり高ランクのモンスターだ。

 腰抜かして身動き取れないで見ていると、巨大な少女は、リッチを生きたままボリボリ食べ始めた。群れの他のリッチたちが精神攻撃魔法を一斉に放ち、少女を直撃した。

 終わった……と思ったら「イライラが止まらないわ。やっぱりカルシウムが不足してるのね。好きじゃないけど積極的に摂取するようにしなくちゃ」と言い放ち、次々とリッチたちを生きたままボリボリ食い散らかす。リッチはなすすべもなく暴れても物理で掴まれ踊り食いにされてる。


 えっと……(汗)なんなのこの娘?!

はじめの、面と向かって出して口説こうとか甘いこと考えてた自分にバローって言い聞かせたい。こんなの拾えん。共に行動してたら食われるわ!物理的に食われなくても、確実に主役は食われる。


 諦めてここを去ろうと見つからない方向に向かい歩き始めたその時、「キャー!」と叫ぶ声が聴こえた。


 ふと振り返ると、さっきの巨大な少女が青い顔をして逃げ回っている。何もいないのに?!


 よく見るとゴキブリンに追われている。しかしたった一匹だ。駆けつけて丸めた新聞紙でバシッと叩き潰してやった。


 その時、少女のおめめが♥になっていた事にバローは気付かなかった。





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