第16話 街を出る
はじまりの街に長居すればするほど、カスミが何か問題起こしそうなので取りあえずそのままカスミ引き連れて出発。ほっとくと何するかわからん。
街の門から外に出ると草原が広がっている。季節的な要因もあるがマジックバッグ持ちの行商人が居なくなり草むしりされなくなったのが要因として大きい。
草原というのもいろいろあるが、ここはたいていの草が腹ぐらいの高さで、ところどころ人の身長を超える草も生えていたりするが、基本的に顔が草の上に出ている状態となる。なんだ楽勝と思うだろ?
葉は表面をびっしり覆うため下がどうなってるか見えないので、かき分けて進むことになるのだが、これもまたギリギリまで背丈があるので非常に力がいる。何より地表状態への視界が悪い。
草の中にすっぽり収まって進むほうがかき分けないでも視界が確保できる分まだマシだ。
街ごと引きこもっていて誰も幹線道路まで出ていかなかったので、幹線道路へ出るための道が廃道のようになっている。昔は草原の中に幹線道路に出るための脇往還が通じていたものだが。
草をかき分けて幹線道路に出たところで、バローはストレージから2人分の天秤棒を取り出す。マジックバッグが普及して以来、実用からは一歩退いたアイテムではあるが、商人を象徴するアイテムとして、実際の商品はマジックバッグの中であったとしてもよほど緊急を要する取引先を待たせてるとかでない限り、看板代わりに天秤棒を肩に掛けて歩くのが営業中の商人のしきたりである。
バローは冒険者の上ストアのスキル持ちでマジックバッグまであるのになぜ天秤棒なのかというと、先ほど述べたように、職業を象徴するアイテムとして認知されていて、情報収集するのに都合がいいからだ。一言で言えば、変装道具である。
「今から俺たちは、商人に扮して情報収集活動を行う。だからカスミもこの天秤棒担いで一緒に歩いていくんだ。」
「商人としてあやしまれた時のため少し設定を練っておいたほうが良いわね。」
これは意外だ。この抜け忍くのいち、忍者としての才能無いくせに、そういう潜伏の前準備は知ってるのか。腐っても鯛というか、餅は餅屋というか。やはり未経験素人と、最底辺でも経験者の間には超えられない壁というのはあるものだ。
「まず、俺たち二人は同じ商会の従業員という設定にしよう。なんて名前の商店を名乗る?」
「『勇者パーティーの横暴を許さない主婦の店バロー商会』でいいんじゃない?」
やっぱりこいつ才能無いわ。店の名前が長い上に、ボツにしたパーティー名をどっかで使おうとして事あるごとに勇者パーティーの横暴を許さないを入れてくる。今はその件とは関係ないじゃん。それに前から少し思ってるんだが、勇者パーティーの横暴を許さないと言うけど、カスミのほうがよっぽど横暴だよ。
こうして各種設定を練って、どこからどう見ても旅の商人にしか見えない完全なる擬態を果たした俺たちは、そこに行けばどんな願いも叶うという王都ガンダーラへと向かう。
―――
「アチャー!」
街道の先の方からモンキーマジックのイントロみたいな叫び声が聞こえてきた。あっ、これ新しいメンバーか政府高官に
声のした方へ走っていくと、路面には痛々しいタイヤ痕が残り法面に押し付けられてつぶれた馬車が倒れている。ローリング賊にでも襲撃されたのだろうか?
ローリング賊については謎に包まれた存在で、九十九折、著名な道路探索家の平沼義之氏が言うところの
ローリング賊は目撃情報こそ眉唾だが、確かにローリング賊に襲われた特徴的な被害者は発生している。ローリング賊に襲われた車両は谷底に転落するか法面にぶつけて大破する。死人に口なしでローリング賊の襲撃の姿を見たものは居ない。
ただそれのみならず奇跡的に生還した者も襲撃された時について黙して語らない。ドライブレコーダーに何か記録が残っているかもしれないと確認してもそこには特に襲撃の痕跡は残っていないのだ。
ローリング賊の襲撃を受けたとされる車両のドライブレコーダーに残された動画の最後の方は不自然なほど早回しになっており、動画が何者かによって編集、差し替えられたことを物語っている。こんな速度で車両が走れるはずもないしましてや曲がれるはずもない。
はっきりしていることは、目の前の馬車はローリング賊の襲撃を受けた時に見られる典型的な状態で転げているということだ。
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