第17話 破損した馬車から囚われの姫を助ける

♪タッタターン タララン タララン タララン タララン タッタターン

けたたましく鳴り響く効果音に何事かとマイバッグのコンソールを見る。

「ご予約いただいたロープ、ブルーシート、のこぎり、セメントが入荷できます。仕入先を選択してください」


 あたりを見渡すと、法面にぶつかり痛々しく破損してる馬車の中に各アイテムの所在を示す矢印がでている。なんと街道に出ただけで依頼達成……。おいしい仕事だった。

 どこで入手出来るか分からない案件だったが、あるところには纏まってあるものだ。それは必ずしも遠くの街にいかないと無いというものとは限らない。聞き込みしたり変装したり全ての準備は無駄になったがなにはともあれクエスト完了!めでたい。


 全品目がここで揃ってしまうとは何たる幸運と各矢印を全部選択する。するとさっきまで姿を保っていた馬車がガラガラと崩れ、中からはだけたドレスを纏ったぶくぶくに太った中年女性が現れた。これはきっとブルーシートやロープの持ち主であったのだろう。死亡事故現場なら残ったモノは発見者のものだが、生存者がいたなら勝手に持っていってはいけないな。話をつけよう。

 マイバッグからブルーシートとロープを取り出して、ロープをビンビンと引っ張りながらそのおばさんに近づく。


 「ひぃぃ!」


 おばさんは怯えて声にならない悲鳴を上げる。


「このロープとブルーシートはおばさんのもので間違いないな?俺たち、勇者パーティーの横暴を許さない主婦の店バロー商会のモンだが、融通してくれないか?」


 さっそく持ち主と交渉を始めると、隣のカスミにゴツンと殴られた。


「女性に対する呼びかけは年齢容姿身分関係なく『お嬢さん』か『娘さん』なのよ!なんなのよおばさんって失礼じゃない!それに、何ロープ張ってるのよ!まるで今から縛るぞと脅してるみたいじゃないの!私が交渉するから見てなさい!」


 カスミにダメ出しされた。忍術という点では全く才能がないと断言するが、戦闘力には才能あるし、なんならここは彼女の交渉能力とやらも見ておこうと思った。


「お嬢さん。わたくしたち先日開業しました『勇者パーティーの横暴を許さない主婦の店バロー商会』の共同創業者のマルトカスミと申します。このたび、ブルーシートとロープとノコギリとセメントをご用命のお客様がおりまして、仕入れ先を探していたところで、たまたま今お持ちのお嬢さんに出会えました。仕入れさせていただけませんでしょうか。」


 ナイスバディの萌えキャラの巨体が巨体に比例するかのような大音声で問いかけると、ぶくぶくのおばさん……あ、いやかつてお嬢さんだった人はあわあわと口をパクパクさせてオレが頼んだときよりもさらに怯えている。忍術だけじゃなくて交渉も才能ないな。カスミを下がらせて、引き継いだ。


「弊社のカスミが言った通りで、仕入れの旅に出ようとしたらお嬢さんが居て必要なものを全部お持ちなので買わせて欲しい。いくら出せば売ってくださいますか?」


 威圧感を与えないように距離を置き、ゆっくりと丁寧な言葉で交渉したところ、おばさん……もといお嬢さんも落ち着いて、交渉に応えてくれた。


 「やつらの手先ではないのですね。ブルーシートもロープも……それがわたくしのものと言うのはどうかとは思いますが、確かに「私の」ですね。わたくしを縛って身動き取れなくするために使われていたものです。外してくれただけで充分です。それはあとはご自由にお使いください。その上お代などいただいたら罰が当たります。なにとぞ在庫にお収めください」


 やった!持ち主から完全に合法に入手した。

「では、売買契約書を作成しましょう。」


えっ?なにそれ?


「古物の売買には売主の名前を届ける必要があるでしょう?だから名前書いて身分証明するものを見せて判を捺すのですよ。」


そして、彼女がこの国の内親王(国王の姉)であることを知る。どひゃあ…!

 にしても訳アリに決まってる。間違いなく派閥抗争の神輿に担がれて敵に拉致られてたんやろ。

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