第13話 ギルドからの指名依頼

 マジックバッグのレベルアップに伴う全世界的なトラブルで、マジックバッグが予定通りに復旧する見込みでの相場は崩れた。レベルアップ後にどうせすぐに買い戻しに来るんだろと高をくくって安く仕入れて高く売る価格設定が、足の速い素材、食糧などが駄目になるくらいなら安く売りさばけとばかりに在庫叩き売りが始まった。

 買い取りで素寒貧になってるオレは、金さえあればなあと思いつつもない袖は振れない。あとから安全になったレベルアップパスでお先にレベルアップしたオレのマイバッグは容量が80tに拡大している。300%アップというから60tだと思ったら、増分が300%で元サイズとあわせて80tだ。残り容量は70tある。スカスカだ。


 ない袖は振れないから仕事でもするかと相棒と合流して冒険者ギルドへと向かう。


 冒険者ギルドにつくやいなや窓口から受付嬢が飛んできて、指名依頼の話を受けた。


「バローさん。ギルドからの指名であなたに相談したい案件があります。」


 前の案件もこのギルドの紹介だったので警戒するが、仲介ではなくギルドからの直接の案件ならば犯罪の片棒を担がされたり、冤罪で嵌められたりといった事は心配しないでいいが、大抵の場合ギルド案件は報酬と職務内容が釣り合わない。よくよく注意して内容を確認する必要がある。そもそも無名のバローを指名というのが怪しい。


「断る!」


 まずおいしい話はないので、即答する。すると、隣にいるカスミが興味津々に、


「要人暗殺の依頼?それならくのいちの私にお任せ!」


 そんな内容をでけえ声出すんじゃない。ツッコミどころが多すぎてどこから突っ込んでいいのかわからん。まず、そういう後ろ暗い話を誰がいるかもわからない①オープンスペースで、②大声で、③嬉しそうに、④直接的表現で言うな。それに、そもそも何も聞いてないうちから⑤俺の「断る!」だけで要人暗殺の依頼と早合点して⑥秘密厳守を良しとするくのいちという自身のジョブを声に出し、⑦才能もないくせに請けようとする。


「なんで、要人暗殺だと思ったんだ?誰もそんなこと言ってないだろう。」


 カスミはシュンとして答える。


「だって、断るって言ったらそれしかないかなと。」


 それはなぁ。確かにそういう連想はあるかもしれないが、数万通りのうちの一つにすぎない。数多の候補からどうしてそれを一意に定めたのか?


 カスミの思い違いと早合点の悪い癖を治すためにも、一度全貌を見せてやる必要がある。ギルド案件は違法性は無いものの報酬が釣り合わないから聞く前から断りたくもなるということを。下手するとワリのワリいギルド案件を請けることになるかも知れんが、将来への投資と諦めよう。


「用件を聞こうか。」


 いかん。カスミに誘導されてしまったかもしれん。


「はい。ブルーシートとロープとノコギリ、コンクリートの入手です。」


 ………。ギルドはいったいそれを使って何をするつもりなんだ?いや、詮索は不要。倉庫の拡充工事のための資材調達かもしれないだろ。これらの資材はいずれも店舗を構える通常の店で入手可能な完全に合法なものであるが、組み合わせて買うと危険な香りが漂う。類似した組み合わせに花火と肥料と圧力鍋と密封剤と目覚まし時計というのもある。


「店で買いな。オレに依頼する話じゃないだろう。」


「それが品不足でどこにも売ってないんですよ。バローさんならお持ちかと」


「うちは生鮮食料品のバッグ持ちだ。雑貨の取り扱いはない。」


「何故かバッグ持ちの方が大量に店を畳んでしまって、もはやうちで頼めるのはバローさんくらいしかいないんですよね……。」


「わかった。もうそれ以上言うな。」


「代わりに、売ってくださるものがあれば他にも色を付けて買い取りますよ」


 卑怯者!しかし背に腹は代えられないから資金を得るために在庫をある程度販売した。


 そして入手希望のブルーシート、ロープ、のこぎり、コンクリートの仕様と数量を確認して、仕入れのための冒険に出る。バッグ持ちなら軽く運べる程度の数量だが、バッグ持ちが大量失業してしまい、レベルアップのために何処かに吐き出したまま各地に散らばっているが、それを必要とするうちのギルドには無い。流通業の本領発揮というところか。

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