第20話 不祥事は権力と暴力で揉み消し

 実は街に戻る上でひとつ問題があった。出てくる直前の「忍法壁すり抜けの術」の後始末である。ギルドの依頼という事を知らない聞き込みの商店たちが通報したのか怪しい物資を調達してる不審者ということで警察署内の留置場にぶち込まれてしまったので、何もやましいところはないので潔白を証明しようと塀の中で大人しくしてたらカスミが留置場まで忍法で壁をすり抜けて助けに来てしまったという騒ぎだ。

 これだけ聞くと、カスミやるなぁと思うかもしれない。しかし壁をすり抜けた事は嘘ではないが、壁を破壊していないとは一言も言ってない。というかくり抜いた程度ならまだいい。壁が壁であったことすら分からないくらいに粉々に粉砕して柱や梁の骨組みだけになった、かつてそこに壁があった空間を「すり抜け」て一直線に留置施設まで来たのだ。もともと壁によって視界が遮られて見えなかった外の光景が留置室から見えるようになった。というか留置場と外の世界を隔てるものが無い。異様な光景になっている。

 指名手配とかなってないだろうなとびくびくしてるバローに、ふたりの女さんが慰めてくれる。


「妾の手にかかれば、それがはじめから正当な行為であることにするなど朝飯前ですわ」


「せこい暴力は取り締まりの対象だけど、圧倒的な暴力は取り締まる術がないものなのよ。」

 

それぞれが全く違う論理でオレに大丈夫だと告げると、ふたりがお互いになんですって?!と睨み合ってる……。


 両手に花とは言うが、権力と暴力の両手に花とは初耳だし、それが互いにライバル視してるって気が気でならない。何を争ってるのだか。


 とりあえず、街の門をくぐりギルドへと向かう。街ゆく人々がオレたちを避けているのが分かる。

 ギルドで納品と依頼完了の手続きを済ませるが、やはり周りが距離を置いてヒソヒソ良からぬ事を噂してる。クソッ!まるで凶悪犯罪者扱いだよ。誰も死んでないし傷ついてもいない。


 「お連れの女性がほとんど裸ですよ……。下着付けてるからわいせつ物陳列罪には引っ掛かりませんが。」ギルドの受付嬢が小声で教えてくれた……。えっ?そっちで周りの視線集めてたの?


 「妾のドレスは愚か者には見えない服なのぢゃ。」

 こら、開き直るな。


「だとしたら、襲ってくる愚か者から身を守る機能がない欠陥品だということになりますわね。」


 受付嬢も慣れてるな……。確かに冒険者やるような奴ってのは一癖も二癖もある奴らだから屁理屈には毅然とした態度で臨めなくては舐められる。


「お~っほっほほ、心配ご無用。この見えない服には毒があって悪い虫は自動的に撃退してくれるのですわ」


 確かに、叢を通り抜けてきたのに一箇所も虫に刺されてない。でも、女に寄ってくる人間の、いわゆる「悪い虫」にも効くのかしらん?


「せめて布でも纏って胸とお腹くらいは隠してください。目の毒です。」


「妾はこの格好が気に入っておる。そちら都合で妾に何かを使わせるにはお金がいるの。ご存じない?」


 そうだった。昔の話ではあるが巨額の宣伝費を投下して化粧やら宝飾品やらを使っていただく相手だったのだ。そしてそういうので雁字搦めにされて契約履行のためにみっともなくなってもいらないものやら厚化粧やらを身に着けさせられてきて彼女は心底飽きていて、生まれたまんまの姿で過ごすことに憧れていたのだろう。

 まぁ、とりあえず指摘は場所を変えて反映するとしても、ギルド方面はド肝抜いて壁すり抜けの術どころではなくなったので問題解決……というかもっと大きな問題をふっかけてスピンしてしまった感じか。次は忍法壁すり抜けの術の直接的な被害者である警察署のほうだな。

 一応顔出すか。いや、それって事実上の脅迫ではないのか?悩んでいると八百子内親王から相談があった。

「服を出してください。ここはひとつ私がひと芝居打ちましょう。」


 何をするつもりなんだ?とりあえずマジックバッグで水分や汚れを分離して拉致されたとき着込んでいたドレスを出して渡す。

ぶくぶく厚化粧をそぎ落としたせいか少しだぶついてるが各所の縛り具合を調整したらなんとなくサマになった。


「ここの予算握ってる長官は妾の腹心ゆえ、破損の案件もその時期が来てたのだと取り繕うのはなんでもないことですわ。それに、そういう予算確保となると役人は釣り糸付きのお金を追う下半身だけ育った大人の赤子のように思い通りに動かせるものですわ」


 そこでひと芝居打つ脇役を務めることになった。何のことはない。お忍びで視察に来た本人の従者という設定だ。そして破損した壁の断面を一つづつ見て回りながら壁の内部の組成をカスミに説明させる。素材から工法までスラスラと喋る。本当なのかどうかバローには分からないが別にデタラメでも構わない。建物更改に向けての調査に来た技師であると周りに思わせればそれでオッケーなのだから。


 しばらくすると人の気配、そして署長が出てきた。

「王女殿下…このようなところで何を」


「しーっ!今の私は王女ではなく、業者の一員ってことにして黙ってなさい!口外は禁止ですよ。あと側壁の断面検査も無かったことにしなさい。」


「するとこの壁破損は……?」


「断面出して調査するよう命じた。しかし設備更改の予算はまだ通ってない。事前調査の費用も出して報告なさいと半年前から通達してるのに一向に報告ないから自分の目で確かめることになったじゃないの。調査費は何に使ったのかしら?職員で飲みにでも行ったのかしら?」


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