第22話 八百子がメンバーに?
「あら?ご存じない?冒険者ギルドのパーティー申請の条項。書いてあるんだけど。」
へ?とカスミが八百子を見る。
「……のほか、関連省庁の長またはそれに相当する者の推薦がある場合、パーティーはその推薦を受け入れることとする。拒否権はない。」
申請書のコピーに確かに書いてある。冒険者ギルドのルールそのものに仕掛けられた巨大なバックドア。なんのつもりだ?
「統治行為の一環で当局に反抗的な反社会的パーティーが台頭してきた時に第五列を潜伏させて乗っ取るために決まってますわ。」
ふむ。なるほど。政府こそが最大の反社会的勢力だと思うがそのことはあえて触れるまい。
「うちが反社会的パーティーだとでも?」
クスリの運び屋やら、ブルーシートとノコギリ、ロープとセメントの調達やらを受注した実績からそう言われても仕方がないがとりあえずそう言い繕う。
「そんなことは申し上げておりませんわ。ただルールはそうなってるというお話をしただけですわ。そしてルールは明文化されたものだけを文字面通りに適用しなくてはなりませんわ。」
「どうする?警察の長官が腹心だと言ってた八百子がメンバーになるとうちの内情が当局に筒抜けだぞ。」
カスミにこっそりと相談する。
「自ら人質になるなら歓迎ですね。まぁ何事も捉えようよ。さらにまだ本人または代理の誰かが送り込まれるって決まったわけでもないし。」
その考え方があったのか。
「わかった。誰を推薦してくれるんだい?」
「妾に決まってるじゃないの!」
やっぱり……。
「うちは勇者被害者が、二名体制で動くをモットーにしてる。二人が喧嘩別れしたら単なる音楽性の違いによる解散にすぎないが、三人となると誰かが抜けるとき、追放という形になるから嫌なんだ。」
「あら?二名体制で動くのがモットーなのは妾とバローでデートするうえで好都合ね。そして1つめの要件の勇者被害者というのは私もそうだから。問題は三人になると誰かが辞めるとき追放みたいになる件だけど、あらかじめ辞めるときのパーティーのルールを作ってそれを厳守すればいいだけじゃないの?」
乗っ取り案件の予感。「音楽性の違い」の内実は9割がカネ、残り1割が異性関係だ。それを使ってせっかく芽を出したばかりのうちのパーティーを空中分解させるつもりか?
「とりあえず、パーティー参加を希望しているということはよくわからないけど完全に理解しました。ただ、ご公務でご多忙の殿下に冒険をさせるわけには行きません。現業ではなく勤務シフト面で比較的融通が利く書類関係と折衝役をお願いしたい。」
要は冒険にはついてくるなと言うことだ。それに少々気になったので確認する。
「殿下もまた勇者パーティー被害者であるというのはどのような経緯があったのでしょうか?」
「ええ。先ほど妾をロープで縛ってブルーシートで包んだのは、勇者テイマーのツツミですわ。ヤツは外国勢力と結託して妾を売国奴として拉致して王都から追放しよった。本当に売国奴ほど他人を売国奴呼ばわりするものよの。」
売国奴ほど他人を売国奴呼ばわりするし、卑怯者ほど口だけは勇ましい。勇者たち、碌でもねえな。碌でもない奴だから勇者になるのか、勇者になとろくでなしになるのかどっちなんだろう?いずれにしても勇者認定の制度自体に重大な欠陥があるのは明らかだ。それもおそらく関連省庁の長またはそれに相当する者とか言うシステムにぽっかり空いたバックドアが原因に違いない。その政府当局の裏技のように用意した穴は、政府当局ごと乗っ取られた時には無意味どころか被害を拡大する。
「わかった。勇者パーティー被害者の会は八百子殿下を名誉メンバーとして迎え入れます。ただし普段は殿下として政府中枢にスリーパーセルとして潜伏してていざというとき我々の肩を持ってください。また、公共からの冒険者のご用命はぜひうちをご贔屓に。」
名義だけ。彼女と行動を共にする予定はない。これで満足していただければ……。
何よりも、人には立場というものがあって、必ずしもこちらの内側のメンバーになってもらうのが良いわけではない。
しかしなんだかこっちのほうがカスミより遥かに本当にスパイというか、くのいちみたいな任務だよな。厄介払いが本当の目的で、動いてもらうつもりは毛頭ないけどね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます