第9話 ブラックFランク冒険者のワイ、隣のSランクパーティーからピッチャーくすねてきたら向こうも発泡酒出されていた件
隣のSランクパーティーは、やはり料理、酒の彩りからして全く違う。ご相伴にあずかりたいもんだわ。複数の円卓の回るテーブルには見るからに高そうなワインに日本酒のボトル、それにピッチャーが無造作に置かれ、はじめの方こそ秩序だっていたが、Sランクパーティーといえど所詮は人間。出来上がってくると酒に飲まれている。隙あり!
マイバッグのチャックを開き中に見えるコンソールに予約入荷、酒と登録すると、隣のSランクパーティーのピッチャーに矢印が出る。すかさずその矢印を選択し、マイバッグには格納してすぐさま取り出す。マイバッグは万引きにも使えるからレジ袋は廃止するべきでないとあの頃みんな言ってたな。
入れ替えに、こっちの空のピッチャーを元の場所に払い出しておく。これであたかも中身だけ消え去ったのと同じように見える。どうせ酔っ払ってて見えてない。
「まっ!オレサマの手にかかれば、ざっとこんなもんよ。」
となりのSランクパーティーからくすねてきたピッチャーからふたりのグラスに注いで、再度乾杯するが……一口口に含んだ途端に違和感を感じた。
「………発泡酒だわ………。」
「そのようだね……。」
さすがはギルド付属の酒場。どうせ気付かないと読み切って、Sランクパーティーにも発泡酒出してる。肝が据わってるというか、違う意味で感心だわ。ギルドの元締めのような真の巨悪は同レベルにいない。優越的地位を濫用して逆らえない相手に正々堂々とセコい詐欺まがいなことをする。
「じゃあ、私がこのピッチャーをあいつらに悟られずにビールとすり替えてきたら私の勝ちね?」
いや、無理やろ。その巨体で隠密行動なんて100年手遅れだ。何をやっても目立つ。なんなら後ろ向いてても影が出来る方向なら分かるぞ。
「いや、やめておけ。確実にバレてトラブルになる。」
カスミはバローの制止を無視して発泡酒のピッチャーを持ち、ドスドスと地響きさせてSランクパーティーの騎士たちが座る円卓へと物陰に隠れるわけでもなく真っ直ぐに向かっていく。まぁこの巨体を隠せる物陰なんかこの建物に無いのだが。
カスミが迫っていくと円卓の騎士たちはなんだなんだとカスミに目が釘付けだ。早速バレてるよ。そして円卓に置かれた瓶ビールを掴み、周りをキョロキョロ見回して……、ビールのあった場所に発泡酒のピッチャーをドスンと音を立てて置いて堂々と瓶ビールを持って立ち去ろうとする。その一部始終はSランクパーティーの全員が目撃している。いや、目撃という言葉すらおこがましい。見たくなくても、気づきたくなくてもよく見ろやと強制的に見せつけられるレベルの強烈な存在感を発している。周りをキョロキョロ見回してるのは何かのギャグですか?
若い魔道士が、ちょっと何やってるんですか……とカスミを止めに行こうとしたら、両隣の剣士と盾役が青ざめて魔道士を止めて口を塞いで、しーっと注意されてる。なんなんだ?この反応は?
そして隣のSランクパーティー全員の視線を釘付けにしつつ、堂々と瓶ビールを持ち帰ってきた……。
「どう?私の忍術も大したもんでしょ?誰にも気付かれずにすり替えてきたわ」
いや、気付いてない人当事者のSランクパーティーだけじゃなくてこのフロアに1人もいませんよ?全員気付いてるって……。
「何してるんだ、返してこい。」
「えっ?なに? このビールはじめからここにあったわよね?なにか変なことあった?」とかSランクパーティー相手に聞いてるよ……開き直りとかケツまくりとかそういうのさえ遠くに置いてきている感じ。何なのこの娘。
声をかけられたSランクパーティーのメンバーは青ざめた顔して震えながら「はい。私は何も見てません。何にも気づいてません!」と言い切った。一人ひとり確認していくが、全員何にも気付いてないと言っている。突っかかろうとした若い魔導師の場合、両隣から空気読めよと肘で指示されてたようだが、全員気付いてないことで同意してる。
部屋の中の象って奴か。カスミはある意味で有名人のようだ。
くすねてきたというよりは強奪してきたビールはとても苦かった。(それでも呑むんかい!)
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