第2話 追放後唐突に覚醒する新スキル

 殴る蹴るの暴行を受けダンジョン深層で身動き取れないまま、マイバッグの説明を読んでいた。致命傷は受けていないが持ち物は全部奪われ、飲料も食物も無い。ダンジョンから脱出する前に力尽きて倒れるだろう。

 ヘルプを読んでいるとレベル5に達したマイバッグは相当いろいろな機能を持っている。こんな多機能だったとは知らなかった。

 その機能の中に、注文格納というのがあった。欲しいものを登録しておくと、入荷できそうなとき通知してくれるというのだ。意味がわからないが、清浄な飲める水と食糧を登録しておいた。

 打撲していて少し動くだけで激痛が走るのでほとんど移動出来ない。従って入荷のアテもないが、なんとなく意思表示だけはしておかなくてはならないという第六感が働いて、まずは清浄な水、その次に保存食と登録した。

 ここはダンジョン深層。同じ場所でちんたらしてたらモンスターの餌食だ。しかし全身打撲した身では自由に動くこともままならない。徘徊するモンスターがここに来た時が詰みだろう。


 ♪ピンコーン!ピンコーン!

 ―――

 ご予約承っておりました飲料水が入荷可能です。どの仕入先から飲料水を入荷しますか?

 ―――

 マイバッグから早速通知があった。


 えっ?と周りを見渡すと、それぞれ人一人分ぐらいの巨大な狼の群れに囲まれていた。しかしその狼の頭上に矢印が浮かび飲料水と肉あり〼と出ている。意味が分からないままボーッとしてるとそのうちの1頭が飛びついて来たので、大急ぎでその矢印を選ぶ。


 飛びついてきた狼はその場で干からびて乾いた毛皮になり、マイバッグには飲料水50リットル、干し肉2キログラム入荷しましたいつでもお渡しできますと表示される。仕入先……?干からびるまで搾り取るの?


 それならばと見える狼への矢印を全部選択すると、マイバッグのコンソールに「飲料水500リットル、干し肉20キログラ厶入荷」と表示され、狼の群れは乾いた毛皮になりその場に倒れる。


 こ、これ、と〜ってもヤバい機能なんじゃない?間違えて人を指定しないように気を付けないと、というか仕入先の条件指定して人は除外って出来ないの?


 間違えて人を指定して殺人者になる前に大急ぎで予約を登録解除する。危ない危ない。


するってえとなんだい?もしかして打撲を治癒する薬とか登録したらそれを構成する要素を含む何かがあればそこから抽出するとかもできるのかなと打撲に効く回復薬かそれに類するアイテムという条件で登録しておいた。


 とりあえず、入荷した水と干し肉で食事してみる。これは美味い。雑味が無い。完全食糧と清浄な水だけ分離されている。


 リリースノートの片隅に機能説明されているだけで大々的に説明しないの意味がわかった。この機能は危険すぎる。物質レベルに仕入れたなら跡形もなく人が消え去り証拠も残らない。

 せめてそのまま時間を止めて完全体で保存しておいて出す直前まで分離しないように設定できないのかとメニュー漁ってると、そういう設定もあるようだ。バルーンヘルプによるとそこに格納された生物は死んでいるのか生きているのか取り出すときまで確定しない……どこかで聞いたような話だが、とりあえず殺さずに格納できて、取り返しがつかないことになるまでワンクッションあるのはいいことだ。

 だから「を含む生物の場合生体のまま仕入れることをデフォルトとする」(いちいち長い……)のチェックボックスをオンにしておく。

 多機能すぎる上に誤爆が怖いマイバッグの設定。こんなダンジョンの深層でなくて平時に家で弄り倒したかった。しかし平時は平時で街に繰り出すので忙しいからこの自らのスキルとベストマッチのマイバックと向き合うということもないのかもしれない。

 まずは身動き取れるようになるのが先か。一応回復薬かそれに類するアイテムが登録されているので、気長に待つことにする。


 痛いところを楽にする姿勢はないかいろいろ試行しつつ、清浄な水(笑)を飲んだり、それで打撲したところを冷やしたり気長に待ってると睡魔に襲われる。無防備なのはよくないが抗えない眠気にやられて寝落ちする。


――


どれくらいの時間が流れたのだろうか。マイバッグの警告アラームに起こされる。

チャックを開くとコンソールの画面いっぱいに、「警告容量超過!在庫整理してください」と書かれたダイアログが出ている。無限収納じゃないの?へんちくりんな機能ばかり充実してて肝心なところで残念なやっちゃな。


 警告ダイアログをパスして、内容物払出しのメニューに遷移したところ、我が目を疑った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る