第48話 宿探し

 用事は済んだ。普通なら荷物もあることだしとっとと帰路に就くのだろうが、荷物は全部マジックバッグに突っ込んでいるので全然邪魔にならないので、せっかくここまで来たのだから、観光とまでは行かなくとも明日一日くらいは街を見て回っても罰は当たらないだろう。


 「アーネストさん。こちらの国の宿屋のいいところご存じないですか?」


 なんだかんだで魔王が一番聞きやすいので、びくびくした感じで腰が低いというか腰が抜けてるほど卑屈な魔王ことアーネスト氏に聞いてみた。


「うーん。僕、一応地元だしホテルに泊まる用事がないんですよね。そういうのはロードサイドで営業して長いここのマスターのほうが詳しいと思いますよ。」


 そう言うとマスターに代わりに聞いてくれた。やはり魔王に相談したのは正しかった。


「出来上がったお客さん来たとき案内してる1キロ以内の簡易宿泊施設なら宿泊マップにあるが、飽くまでも簡易だからな」


 そう言うと、招き猫と仙台四郎のホームポジションがあるピンクの電話の隣に貼り出されてる運転代行業者の名前がでかでかと書かれた周辺宿泊マップを指差す。


 漫画喫茶、健康ランド、カプセルホテル、ラブホテル、個室ビデオ、カラオケボックスとあらゆる種類の簡易宿泊施設が書いてある。ここは喫茶店なので酒は出ないがロードサイドの飲み屋からシメのケーキセットを食べに来る客が居るようだ。でも、彼らはどうやってこの店まで来るんだろう?


「酔っぱらいがうるさそうですね。」


「漫画喫茶、健康ランド、カプセルホテルはそんな感じだがそんなにテンション保てないから小一時間もしたら静かになるよ。むしろイビキがすごい人がたまにいるのから、ラブホ、個室ビデオ、カラオケのほうがいいかもしれないな。カラオケは防犯の観点からは心配だが。」


 そもそもカラオケは寝るところじゃない。実質は宿泊施設だが、表向きは歌う場所ということになっている。


「サクヤはお風呂に入りたい〜!」


 サクヤが今夜の寝床について注文を付けてきた。漫画喫茶、個室ビデオにもシャワーはあるが湯船は無い。ラブホか健康ランドに絞られてしまった。ここまで絞られたらラブホに雪崩込むのは確実。先に手を打って回避するにはやはり簡易宿泊施設ではなくて、普通の宿も選択肢に入れなくてはならない。


 「多少遠くても、湯船がある簡易でない宿はご存知ないですか?」


 「うーん。健康ランドで風呂入って個室ビデオで寝てはどうだ?」


 この国では宿でゆっくりくつろぐという習慣がなく、風呂と寝床と飯屋というのは別々の機能として認識されていてそれが一箇所にまとまっているものではないらしい。その割に寝床とビデオ、寝床とマンガというのは切り離せない機能として扱われてるという。寝る前に一体全体ナニをするんだろうか?


駅寝ステビーしたらどうだ?」


 三波さんが突然話を切り出す。並木さんと坂本さんが、そりゃあかんやろという目で三波さんを見てる。なんか三人でそういう経験でもあるのだろうか?


「八兵衛んとこ、空き部屋あるんじゃないかな。ちょっと聞いてみるね」


 坂本さんが電話をかけてる。


「あぁ、そういえば坂本先輩の勤め先、ビジホでしたね。」


アーネストさんがなんか思い出したようだ。坂本先輩?


「あぁん?八兵衛? かあさんだけど。四人収容できる部屋あいてる?……うん。うん。……さすがに男女同部屋はアカンよ。シングル4つからダブル一つとシングル2つとかそんな感じ。あるのね?いくら? ウンウン、わかってる? 説明しようか?。じゃあ取っといてね。んじゃ。」


 坂本さんが電話を切ってこっちを向いて言い放った。


「タダでいいってさ?」


 なんか電話の途中に怪しげな問答があったが、そういうことか……。『ワルなんて甘っちょろいモンじゃない』(三波談)の伝説は過去の話ではないようだ。

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