第27話 捜査ファイル#1:赤目のアン

 八百子人脈を活かして赤目のアンに接触するのは容易だった。八百子がお茶会に呼びつけたらのこのことやって来た。逃げも隠れもしないのでこいつはシロという印象が拭えない。


 事前の情報と違わず、ふらふらしているがふくよかでがり痩せということはない。貴族同士お決まりのクソ長い挨拶を終えて席に着く。そして持参したお菓子を広げる。


「わたくし、本日のためにクッキーとブラウニーを焼いてきましたのですわ!」


 事前情報によると彼女がお茶会に持ってくる自作のケーキは、大麻入りである確率が99%とのことだ。その悪意を全く感じさせない口ぶりに乗せられてラリってしまうという。


 もてなしをする主人の八百子は警戒心を隠しきれない。

「アンさまの焼かれるブラウニーは魔法をかけたようにおいしいと聞いております。いくつかお持ち帰りさせていただいても?」


 おみやげに持ち帰るという建前でマジックバッグに入れて品目を確認しようという算段だ。それを察してマジックバッグのファスナーを開き、裏地に貼り付いているコンソールの表示を見やすい角度に調整する。


「あーら、さいでざますか、それならもっと持ってきたほうがよろしかったですわね。せっかくですからわたくしの帰りがけいただこうと用意してたのもこちらにお出ししますわ。お気になさらず召し上がれ。」


 アンがさらにバッグからブラウニーとクッキーを取り出す。まさか赤目のアンもマジックバッグ持ちだったのか?マジックバッグの戦闘力は知っている。同じ道具を持っているならもし闘うことになったとき苦戦しそうだ。

 しかし、取り出した量はバッグの中により分けていた自分用というのを超える量ではなく、それがマジックバックであることは否定できないが確定することは避けられた。


「手前味噌ですが、わたくし自分の作るブラウニーは伝説の聖女マリー・ジェーンさまの作られる治癒魔法が掛けられたスペースケーキに負けないと自負しておりますの。ですからいつもバッグに持ち歩いて、小腹がすいたときつまんでいるのですわ。」


 マリー・ジェーンというのはマリファナの語源になった大麻合法化運動の旗手であると同時に慈善活動家で、数々の不治の病を大麻を使って癒したと言われる半ば伝説化した女性である。緑内障、エイズ、末期癌、老衰をことごとく治癒し、本人は治癒魔法などではなく、ただ単に大麻の薬効で大麻さえ制約なく使えれば誰でも出来ると謙遜してるが、実は最強レベルの治癒魔術が使える聖女で、大麻さえあればと言うのは大嘘と考える向きもある。

 そんなわけで、マリージェーンについては、純粋に聖女様として崇める人と、堕天使みたいな困った人だとする人で世論を二分している。

 なんで困った人になるかというと、彼女に治癒された不治の病と大麻が関係ないと主張するには不治の病から癒された原因として彼女の聖女としての人智を超えた素質の存在を認めざるを得ないが、彼女を神の使いたる聖女と認めたならなぜ言う通り大麻を解禁しないと言われてしまうからである。


 少なくとも赤目のアンは、マリージェーン聖女説をとる立場のようだ。いや、クスリに対する態度とかそういうの以前に、まだアンが出したお菓子がスペースケーキとキマったわけでもない。完全にこちらが浮き足立ってる。ただお茶会が始まって、アンが手作りのお菓子を出した。それだけだ。冷静に、冷静に。


 お菓子を出すが、アンは手を付けない。やべぇ薬が入ってて自分は食べずに八百子に盛ろうとしているからか?いや、こういう席では立場が上の人が先に食べた後、それいがいの人が口にする礼儀作法である。つまり八百子が真っ先に食べなくてはならない。詰んだ……と思ったら八百子が気を利かした。


「ではおみやげにそれぞれ4つづついただきますわ。カスミちゃん、見繕ってちょうだい。」


「では、コレと、コレと……」いい感じにランダムにクッキーとブラウニーを選び、皿に取り、バローに合図を送る。


 マイバッグに遠隔収納する。そして早速今入荷したものが何であるか確認する。


アイテムリスト(最新入荷分)

―――

クッキー 4 個(単品管理メニューあり) 10 g


ブラウニーケーキ 4 個(単品管理メニューあり) 32 g



スペースとか大麻入りとか付かない普通のクッキーだった……。とんだカラ回りだった。


 問題ないですとアイコンタクトでカスミに知らせると、

「問題ないって。八百子殿下、食べていいですよ。」と大声で直球で伝える。……orz


どアホ!そこは取り繕えよ!そして八百子に引き続きアンも食べる。毒を盛ってるわけでもないので当たり前に同じ山として積まれたクッキーを食べている。

 うん。彼女はシロだ。


 と思ったら、お菓子を食べた途端に白眼の部分が真っ赤になった。


 うん。彼女はアカだ……。


 いやシロかクロの判定なのにアカって何だ?

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