第24話 Hot BBQ!


 ポツリポツリと猛牛タウラス生体がマイバッグに格納されはじめた。ギルドの在庫を先に出してもらい、入れ替えに今回捕獲した肉を後で納品する約束をしている。入れ替えによって古い……もとい熟成した肉をいただいて、新鮮な肉と在庫を入れ替える。当然新鮮な肉のほうが交換価値は高いが、肉は腐りかけが旨い。ギルドは在庫を新鮮な肉と交換でき、モンスターも退治し、集まった冒険者たちはおいしいお肉をいただけると三方よしのイベントだ。

 スタンピードは別に街を狙って来ているわけではないのでもし街に向かってこなかったとき下手に在庫処分してしまうと後で食べる分がなくなる恐れがあるから、獲れたぶんだけ在庫を食べるというちょっと不思議なやり方だ。

 ギルドの冷蔵倉庫から出した熟成がいい感じに進んでる猛牛タウラスの肉をカスミがマグロ包丁と牛刀で手際よくおろす。本業の忍者としての才能は無いのに動物解体の才能はあるとは器用貧乏というかなんというか。

 あっという間に火が通りやすい形に美味そうな肉に切り出されて、調理に回す。となりのコックピットでは、ギルドマスターがピットマスターを務め、受付嬢はその隣で鍋奉行を務めている。

 燻製の煙と肉の焼けるうまそうな香り、牛鍋のおいしそうな香りのする湯気を広げ、食欲をそそる。いただきます!


 Aランクパーティーのリーダーを務めるテラオカさんは、なんと樽でビールを寄贈してくれた。サーバーもギルドから借りてきてくれている。発泡酒でもその他雑酒でもない正真正銘の本物の生ビールだ!


 スタンピードはマジックバッグ持ちが居ない集落では悲惨な災難だが、マジックバッグ持ちが居て協力的である場合は、悲観的な要素はこれっぽっちもない単なるフェス的なお祭りだ。この天国と地獄を分けるのはマジックバッグとそれを適切に使えるストアスキル持ちが居るか居ないかだけだ。


 冒険者仲間たちの歓迎と感謝を一身に浴びながら、発泡酒でない本物のビールを浴びるように飲んで、塩でなくてお腹に本当に入っていくBBQを頬張り、一時の本当に幸せな時間を満喫した。


 あの時とは違う環境に身を置いているんだ……。と今この瞬間の幸せをギュッと噛み締める。たいしたことないと蔑まれた自分のスキルを必要としてくれる人たちが居て、その要求に自分のスキルで応えることができて、賞賛される。マジックバッグさえあれば誰でも出来ると散々言われたことが、アップデートによるマジックバッグ一斉障害により今使えるマジックバッグを持っているというだけでみんなから大切にされているというのがわかる。本当にありがたいことだ。


 なんなら自分が求められて感謝されるシーン、すなわち食用になるモンスターのスタンピードが年がら年中起こっていてほしいと不謹慎なことさえ思ってしまうが、めったにないことだからこそお祭りのように発泡酒でない本物のビールを寄付してくれる人も現れてこういう楽しい食事会が開かれるのだ。年がら年中起きていたなら、お祭りではなく仕事になり、きっと味気なく面倒事だみたいになるだろう。準備万端にしている時に台風が来るのと同じような、たまにしかないからこそ楽しい時が過ごせるのだと、理屈ではわかっている。

 だからこそ、このひとときをより心して噛みしめるバローだった。

 こんなにいい思いできるのだと知っていたなら条件吹っ掛けたり、不満ぶちまけたりしなかったのに。

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