最終話 花と栞

「やっぱり、咲いている時間までは長くなってくれないよね・・・」

「それはそうよ。少しくらいなら延ばせるかもしれないけど、そこまで大それたことが出来る力ではないわ。」

ルルと一緒に見守る花壇の中で、私達が力を注ぎ込んだ花が、数日の時を過ごして間もなく最期を迎えようとしている。

つまりは、ルルが元いた世界のように、花の妖精としていられる時間も、終わってしまうことになるけれど・・・


「別に、この植物自体はまだ生きているでしょう? また時季が来れば、花を咲かせるはずだわ。」

「うん、また別のお花も植えようと思ってるし、ルルが楽しめる時間も増えるといいな。」


「シオリ、私にばかり気を遣わないで、自分でも楽しみなさいな。」

「うん? もともとお花を見るのは大好きだし、ルルと一緒に見られるだけで、私はすっごく嬉しいけど。」

「もう、なんの誤魔化しもなく、そんなことを言うんだから。」

ルルが頬をつんつんと突いてくるけれど、本当だから仕方ない。・・・思考が単純だって言われたことは、人生の中で何度かあるよ。ぐすん・・・


「ところで、ルル。もうすぐこの花が枯れてしまうなら、一つやりたいことがあるんだけど、摘み取ってもいいかな?」

「ええ、この植物そのものを引き抜くわけでもないし、いいと思うわ。」

「うん、それじゃあ・・・」

他のところに傷をつけてしまわないように、慎重にお花の部分だけを摘み取る。痛かったらごめん。でも、これからも大切にすると約束するよ。



「さて、前に使ってたあれは、まだ私の部屋にあるよね・・・」

「何をするつもりなのよ、シオリ。」

摘んだばかりのお花を手に、家の中へぱたぱたと走ってゆけば、ルルも羽ばたいて付いてくる。


「このままとは行かないけど、お花を残しておく方法があるんだよ。」

「はあ・・・?」

ルルがよく分からなそうな顔をしているけど、今は早めに工程を進めたほうがいいから、説明は後にして良い感じの紙を準備する。そこにお花を挟んで・・・


「ちなみにルル、水分を飛ばす魔法とかは使える?」

「出来る人間や妖精もいるでしょうけど、私には無理よ。」

「分かった・・・それじゃあ、風情はないけど人間の道具の出番だ!」

今度は台所に移動して、電子レンジの扉をばたんと開ける・・・いや、自然乾燥させると数日かかるし、ルルに完成品を早く見せてあげたいから、仕方ないよね。



「うん、出来た! さっきのお花から作った、押し花入りのしおりだよ。」

「シオリ・・・? これもシオリという名前なの?」

「うん、文字にすると少し違うけどね。本を読む時に、自分がどこまで進んだか目印にするんだよ。もちろん、ただ眺めるだけでも綺麗だし。」


「ふうん・・・自分の名前と同じだから、シオリは気に入っていると。」

「そ、それもあるけど、大きいものじゃないから場所は取らないし、ちょっとした小物みたいに持っておいて、ふとした時に見て癒されてもいいんだよ・・・!」


「ふふ、何をそこまで動揺しているのかは分からないけれど、確かに良いと思うわ。シオリと私の力も少し残っているから、何かの時に役立つかもしれないわね。」

「えっ! まさかのマジックアイテム化してた!? 時季が過ぎたお花は、毎回これにしよう・・・!」

この前の満月の時みたいに、ひょっこり妖精が出てきたら、これを使ってルルと一緒に見られたりするのかな。実現できたら素敵すぎる!



「ところで、これは私の体と同じくらいの大きさだけど、身に付けられるような小さいのは作れるかしら。」

「うん! 今あるものでも調整すれば出来るし、なんならルルに合うお花から準備するよ。あっ、それで力を込めるなら、また苗からになっちゃうけど。」


「ふふ、それじゃあお願いするわね。時間はかかってもいいのよ。私達はこれからも一緒でしょう?」

「うん、もちろん!」

私とルルは繋がっているんだから、これからも何度だって一緒に花を咲かせることができる。その時にはまた、この世界の妖精にも・・・もしかしたら、それ以外のまだ見ぬ存在にも、出会うことがあるのかもね。

想像を巡らせながらルルと笑い合って、もう一つの栞を作り始めた。

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