第16話 不安と心配

『ルル、お願い。』

『ええ。今、視えるようにするわね。』

『さっきの子達の梢ちゃんへ向かう感情は、今は落ち着いてるか・・・いや、奥のほうに黒いのが見えるけど。ひとまず大丈夫かな。』


『ルル、お昼食べ終わったし、学食まで確認に行くよ。体育倉庫の思念さんにも挨拶するから、近くなったらお願い。』

『ええ、分かったわ。律儀なのね・・・』


『ルル。今日最後の授業までもう少し時間があるから、お願いできるかな?』

『わ、分かったわ・・・』



『ふえええ、すっごく疲れた・・・』

『それはそうでしょう。シオリってば、授業の合間にずっと妖精視フェアリサイトを使って、ほとんど休んでいないんだから。』


『だって、梢ちゃんが心配で・・・あっ、放課後だしもう一度確認したいから、お願いしてもいい・・・?』

『シオリ、あなたねえ・・・この力に慣れてくれるのは良いと思うけど、無理に使ってるなら私が心配よ!』


『うぐっ・・・でも、でも・・・』

『あら、そのよく話す人間が近付いてきたわよ。顔を上げなさい。』

『はっ・・・!』

ルルの声にばっと顔を上げれば、目の前に梢ちゃん。なんだか険しい表情かな?


「詩織、ちょっといいかな?」

「う、うん・・・」

そのまま連れ出されて、廊下の奥のあまり人が来なそうな所。ど、どうしたんだろう。



「詩織、さっきから私のこと、変にちらちら見てない? それに別のところも。」

「な、な、何のことかなあ・・・?」


『シオリ、その答え方と目のそらし具合は、誤魔化していると教えるようなものよ。』

『うぐうっ・・・!』


「大方、さっきの体育の時のこと、心配してくれてると思うんだけど、別に嫌がらせとかはされてないし、何かあれば職員室にでも行くから、大丈夫だよ。」

「で、でも、梢ちゃんにすごく・・・怒った顔してた。」

妖精の力を借りて人の感情が見えるなんて、言えるわけがないから少し誤魔化す。でも、今度は目をそらさないよ・・・!


「そっか、ありがとう。詩織はよく見てるね。私も気を付けるから、無理に何かしようとしなくていいからね。」

「う、うん・・・」

梢ちゃんが笑顔で手を振り、去ってゆく。心配なんて何もないと言うように。でも、でも・・・!


『ねえ、ルル。視えたよね? 梢ちゃんも本当は、不安に思ってる・・・!』

『シオリ、まさか自発的に力を使えるようになったの?』


『うん。まだなんとなくだけど・・・今日たくさん使ったおかげかな。』

『そのうち、そんな風になれば良いとは私も思っていたけれど・・・自分だけで発動出来るからって、際限なく使うんじゃないわよ?』


『そ、そうだね。気を付けるよ。』

私の中に入ったままではあるけれど、ルルがすごく心配そうな顔をしているのが、伝わってくるようだ。

確かに、体調を崩したりして、ルルまで危険に晒すようなことは絶対に駄目だよね。でも、梢ちゃんにも危険がありそうなら、すぐに教えたいし・・・


『ねえ、シオリ。あなたの言う通り、さっきの人間も不安を抱えているのが視えるわ。でも、今どうこう出来るものでもないでしょう?

 何かあれば私も協力するから、あなたも無理をするのは止めなさい。』


『分かった・・・ありがとう、ルル!』

『最初に助けてもらったのは、こちらのほうなのよ。こんな時くらい、私を頼りにしなさいな。』

いや、もう十分に助けてもらっているけどね。私と繋がるルルの気持ちが嬉しくて、心が少し楽になった。

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