第17話 湧き上がる思い
「はあああ・・・やっぱり心配だよお・・・」
「シオリ、あなた何回目よ・・・」
お風呂場で体を洗い、湯船にゆったりと浸かれば、溜まっていた思いが声になって出てきてしまう。向かい合うルルの呆れた表情が、心に痛い。
「うう・・・自分でも分かってはいるんだけど、こう湧いて出てくるような気持ちって、どうにもならなくて。」
「もう、仕方ないわねえ・・・」
ルルがぱしゃりと湯船から飛び上がり、私のそばまでやって来ると、つんと額を突いてきた。
「同じことばかり繰り返し考えてるから、切り替えられないのよ。別の楽しいことでも思い浮かべなさいな。
例えばシオリが教えてくれたこのお風呂、慣れてくるとすごく気持ちいいじゃない。妖精の私にも驚きだわ!」
「う、うん。それは嬉しいけどね、ルル・・・今の姿は目のやり場に困るというか・・・」
私の目の前には、一糸纏わぬ姿の美しい妖精がいる。もしルルが手のひらサイズじゃなかったら、いや現時点でも色々とアウトじゃないかなあ!?
「・・・シオリ、目をそらしながら視線だけはしっかりこちらを向いてるの、何とかしなさい。」
「うぐっ・・・その、これは人間の本能的な何かだよ、きっと・・・」
「はあ・・・少しばかり
「ひゃっ・・・!? そ、そこは・・・!」
ルルが私に背を向けると、そのまま垂直に降りてお湯に浸かり、ぺたりともたれかかってくる。そんなことされたら、変な気分になっちゃうよ!
「あら、もう少し座り心地が良いかと思ったけれど、そうでもないのね。」
「うえええええん・・・!!」
そうだよ、そんなに大きなものは持っていないよ、私は・・・!
「・・・うん。とても哀しい気持ちになったから、ある意味切り替わったよ。」
「あら、それなら良かったじゃない。」
寝る準備を終えて、布団に横になったところで、ルルがそばに飛んでくる。このまま光になって私の中に入り、一緒に眠るのがいつもの流れだ。
「そうだ、一晩寝ると気持ちがすっきりするって、よく聞くんだよね。明日になれば、あの子の黒い感情も綺麗に無くなってると良いなあ。」
「ええ、そうだと良いわね・・・それから、シオリも元気出しなさい。本当は、さっきのすごく気持ち良かったわよ。」
「ふえっ・・・!?」
ルルが私の頬に口づけて、そのまま光になって中へと入ってくる。
『ふふ、おやすみなさい、シオリ。』
『お、おやすみ、ルル・・・』
いや、嬉しいけど、私眠れるのかな・・・?
*****
『ふあああ・・・やっぱり寝不足だったかも。』
翌朝、早めに教室に着いて座っていると、あくびが出てしまう。
『あら。それにしては、シオリが時々気にしてるお肌の調子とやら、良いほうなんじゃない?』
『そ、そうかなあ? そういえば良い夢は見たかも・・・』
うん、どんな夢かルルには言えないけど、すっごく・・・って! そんなことのために早めに登校してきたんじゃない。
気になるのは、梢ちゃんに怒りを向けていた子の感情だ。昨日思い浮かべたように、一晩寝たらすっきりして、綺麗さっぱりとした色になっていたり・・・
『シオリ、すごいのが来たわよ。』
『えっ・・・・・・昨日より、どす黒いものが増えてるう・・・!?』
自分でも少し使えるようになった、妖精の力で感情を視てみると、とても嫌な感じ・・・
『シオリは向こうを見ないほうが良いと思うけど、あれこそ寝不足という感じがするわ。お肌の調子も悪そうね。』
『それはそうだろうねえ・・・!』
きっと、昨日のことが頭から離れなくて、一晩中ふつふつと怒りを溜め込んできたのだろう。私、本当にルルに感謝したほうが良いんだろうな。
「おっ! おはよう、詩織!」
「あっ、おはよう、梢ちゃん・・・」
私は平静を装って挨拶したけれど、びっくりして心臓が飛び出るかと思ったよ。梢ちゃんの存在に彼女が気付いた時、ごうっと黒いものが湧き上がったようで。
今日のうちに、きっと何かが起こってしまう。私は予知能力なんて持っていないけど、確信に近いものを抱いたのだった。
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