異世界生まれの妖精を保護したら、幻想種が見えるようになりました!

孤兎葉野 あや

第1話 手のひらの出会い

――どれくらいの間、眠り続けていたのだろう。

  空が割れて、私は吸い込まれて、そして・・・・・・


  誰かの声がする。たとえ届かなくとも、必死に呼びかけるような。

  もしかして、これは私に・・・?



「ねえ、ねえってば! あなた大丈夫?

 眠ってるの? そうだよね・・・!?」

私の手のひらには、その中に収まってしまうほどの小さな女の子。背中には薄い羽が見える。


庭にお花を植えようとしたら、土の中から透き通った繭みたいなものが出てきて、

そこから女の子が現れただけでも、信じられないことばかりだけど、今はそれどころじゃない。

この子、目を閉じたままで、少しも動かないんだ・・・


心臓マッサージ? 人工呼吸? 急にやろうとしても正しい手順なんて思い浮かばないし、手のひらサイズの子にそんなことをしたら、かえって怪我をさせてしまいそうだ。

今の私に出来るのは、ただ呼びかけることだけ。嫌だよ、出会えたばかりなのに、さよならなんて・・・!


「~~―、~~?」

「えっ・・・?」

不意に呼ばれた気がして見れば、手のひらの子がうっすらと目を開け、消え入りそうな声で何かを話している。でも、でも・・・!


「ごめんなさい、分からないの・・・!」

確信してしまった。この子とは言葉が通じない。だからせめて伝わるように、首をぶんぶんと振りながら言う。

辛そうな様子で頑張ってくれたのに、私はなんて無力なんだろう・・・涙が滲んできた。


『急で悪いけれど、力を貸してくれるかしら?』

「えっ・・・?」

その時、頭の中に声が響いて、我に返る。

見れば、女の子がよろよろと身体を起こし、私の手のひらに自分の手を当てていた。

そういうこと、なんだよね・・・?


「うん! 私に出来ることなら、何でもするよ・・・!」

勢いのままに答えてから、こういう言い方って良くないんだっけ? と思い当たる。

でも、悪用するような子には見えないし、今はどんなことをしてでも助けたい。


『ありがとう、少し休ませてもらうわね。』

「えっ・・・・ええっ!?」

女の子はそう伝えてくると、きらきらとした光になって、驚く私を余所に、この手の中へと吸い込まれるように消えていった。


「えっと・・・これでいいんだよね? 休むって言ってたし。」

何が起きたのか分からないけれど、その言葉通りなら、声をかけたりするのも良くないだろう。

私はひとまず、元々庭に来た目的である、お花の苗を日当たりが良い場所へ植えることにした。



*****



「・・・・あの子、どうしたのかな。」

あれから待つうちに、翌朝になったけれど、女の子は姿を現さないし、声も聞こえてこない。

強いて言えば、なんだか無性にお腹が空いて、晩御飯を食べ過ぎてしまったくらい・・・うん、きっと体を動かしたり、びっくりするようなことがあったせいだよね。仕方ない、仕方ない・・・


「・・・・・・もしかして、あれは全部夢だった、なんてことはないよね?」

少し不安になってきて、ぽつりとつぶやいてしまう。両親が仕事で海外に行って、私は高校があるからと家に残ったけれど、一人暮らしが淋しい余りに、夢を見ていたのだろうか・・・


『何言ってるの。夢じゃないわよ。』

「・・・!!」

心にもやもやしたものが生まれかけた時、頭の中に声が響いてくる。昨日確かに聞いた、あの声が。


『待たせてしまったわね。今、姿を見せるわ。』

私の手から、きらきらとした光が出てきて、やがて羽の生えた女の子の姿へと変わる。


「・・・! 元気になったの?」

「ええ、あなたのおかげでね。」

そう言って羽ばたき、宙に浮かびながら、くるりと一回りしてみせる。それは一目見て確信できるような、生き生きとした様子だった。


「そうだ、自己紹介もまだだったわよね。

 私はルルティネ。見ての通り妖精よ。」

「わ、私は詩織。フルネームは草花辺くさかべ 詩織。」


「クサカベシオリ・・・ちょっと言いにくいわね。最初に聞いた『シオリ』で良い?」

「うん、いいよ! る、ルルティネ。」

あっ、ちょっと噛んだ。こんな時に何してるのかな、私・・・!


「あら、シオリも好きに呼んでくれて良いのよ? そもそも私が助けられたのだし。」

「そ、そう・・・じゃあ、ルルでいい?」


「ええ! なんだかシオリに呼ばれると、心地よい響きだわ。」

ルルが嬉しそうにくるくる回っている。喜んでくれたのなら、良かった・・・!


「ところで、昨日は言葉が通じなかったはずだけど、今は大丈夫なの?」

「ああ、説明する余裕もなかったわね。あの時は確かにそうだったから、精神感応で意思を伝えたのよ。

 だけど今は、力を使い果たして消えそうになっていたところを、シオリの中で回復した状態。簡単に言えば、今の私はシオリでいっぱいなの。言葉だって当然通じるでしょう?」

「わ、分かる気はするけど、言い方・・・! というか、ルルティネはそんな状態なの?」


「ええ。そうでもしなければ私は消えていたでしょうし、何も問題は無いわ。他に言っておいたほうが良さそうなことは・・・シオリが命を落としたりすれば、私も一緒に消えるということくらいかしら。」

「えええええっ・・・!?」


「そういうわけで、今の私はシオリと離れられないから、これからもよろしくね。お礼に加護くらいは授けてあげるから。」

「う、うん・・・こちらこそよろしく、ルル・・・!」

色々と重大な話で、頭がいっぱいになりそうだけど、私とルルの日々はこうして始まったのだった。

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