第7話 初めてのお出かけ(下)

「あ、あの、この先に恐い人達がいるから、危ないみたいです・・・」

私とぶつかりそうになった、格好いい印象の女の子に、しどろもどろになりながら伝える。

ルルの存在を教えるわけにはいかないけれど、だからといって危ない場所へ人を平気で行かせるほど、私は冷たい人間じゃないよ・・・!


「ありがとう、でも大丈夫だよ。私は慣れてるからね。」

「え・・・・・・?」

そう言って、戸惑う私を他所に女の子はずんずんと先へ進んでゆく。


「ど、どうしよう・・・・・・ルル、あの人とさっきの危ない気配が、どうなってるか分かる?」

『ええ、視てみるわ・・・! え、ええっ・・・?』

あれ、ルルまで驚いた声を上げているけれど、一体何が起きているの・・・


「ルル、どうしたの・・・?」

『ええとね・・・また別の気配・・・いや、シオリとすれ違った人間が発したようにも思えるけれど、それが大きくなって、最初にあった良からぬ気配が消えたわ。』

「ふえっ・・・?」

もう何がなんだか・・・という気持ちだけど、あの女の子はすごい人だってこと?



『あっ、さっきの人間が戻ってくるわ。』

「あ・・・・・・」

そうだった、何にせよあの人が戻って来た時のことは、考えておくべきだったよね? 私・・・!


「あっ・・・あの、大丈夫、でしたか・・・?」

「うん、もう心配ないよ。ただ、気絶してる人が三人ほどいるから、この先へは行かないほうがいいかも。」


「あ、ありがとうございます・・・」

「どういたしまして。それじゃあ・・・!」

格好いい女の子は、こちらに笑いかけると、何事も無かったかのように去って行った。


「・・・な、何だったんだろう。」

『それより、こっちも場所を変えたほうがいいんじゃない?』

「そ、そうだよね。ありがとう、ルル。」

人通りの少ない道を早足で出て、お店の多い開けた場所を見付け出すと、その隅にある周りが静かそうなベンチに腰かけた。



「ここなら、ルルも大丈夫かな?」

『ええ。少しは慣れてきたし、人間の気配で疲れてしまうことも無さそうだわ。それと・・・シオリの周りには誰もいないから、声は出さないほうがいいと思うわよ。』


『はうっ・・・! そ、そうだよね。一人で何か喋り続けてる状態になるところだった・・・』

まあ、イヤホンか何かを付けて、手ぶらで電話らしきものをしている人だって見かけるし、気にするほどではないのかもしれないけれど、怪しまれないに越したことはない。


『それで、さっきの人は何だったのかな・・・』

『正直なところ、私にも分からないわ。さっきシオリに話したことが全てよ。ただ・・・・・・』


『ただ?』

『あの人間の他に、誰かいたような気もするのよね。私が今、シオリの中に隠れているように。』


『ふえっ? じゃあもしかして、ルルのことも分かっていたり・・・?』

『そうかもね。自分も《そう》だから、私に気付きながら何も言わなかったのかもしれないわ。』

『うわあ・・・・・・』

良くない気配を消してくれたのは確かだし、悪い人ではないだろうけど、何だかすごすぎてよく分からないようだ。



『ところで、シオリ。この世界で魔法を見たことが無いといったけれど、あんな風に特別な人間が持つような力は、知られていないの?』

『特別な・・・? あっ!』

そういえば、私が普段意識していないだけで、言葉自体は知っているものがある。


『霊感・・・』

『うん・・・?』


『えっとね、亡くなった人の魂とかが、この世界に漂っているという考え方があって、一部の人はそういったものを感じられるらしいの。大抵の人が知ってる噂話みたいなものかな。』

『なんだ、それが本当だとすれば、ちゃんと力があるじゃない。』


『それから、姿を見ることは出来ないけど、この国ではたくさんの神様が信仰されていて、特別な日には神社に参拝したり、新しい家を建てる前にお祓いをしたりする人は、たくさんいるよ。』

『・・・シオリ、こっちにも魔法の類いって、色々あるんじゃないの?』


『そ、そう言われると苦しいけど、大部分の人が見たことも感じたことも無いのは確かなんだ。

 でも、そうだね。ルルが授けてくれた力があるなら、私も・・・』

ルルと話しながら、自分の中で決意が固まってゆくのを感じた。


『ねえ、ルル。少しずつにはなっちゃうと思うけど、力の使い方を教えて。今よりは心配をかけないようにしたいから。』

『ええ、分かったわ。シオリの目を立派な妖精にしてあげる!』

『私、人間だからね・・・!?』

少しばかり言い方が強いけれど、私もルルと一緒に、世界を感じられるようになりたいな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る